第116話 戦う理由

 才能には色々な形がある。

 努力すればするほど力の付く努力型。

 そして、努力せずとも才能を開花させていく天才型。

 ムサシは間違いなく前者のタイプで、青天井の才能が彼を誰よりも強くさせた。

 しかし、それは決して平らな道のりであったわけではない。

 ムサシとて何度も挫折を味わっているのである。

 それでもめげずに努力を続けたことで、ムサシは強くなれたのだ。

 数いる冒険者の中でSランクになった。

 強者、くせ者ぞろいのSランクですら最強になった。

 モンスターの頂点である魔王。

 その一角として君臨していたハザード=ダイヤモンドも下した。

 誰よりも努力し、道なき道を歩み続けた。

 数年を要して魔剣の扱いを習得した。

 全ては未来に進むため。

 ための強さであった。


 だからこそ嫌になる。


 自分の要した年月を爆速で駆け上がる最強おとこに。



 ・・・



「ハァハァ……できたできた」


 ムサシに一撃入れた姿勢のままで、タローは感動に震えた。

 あらゆる攻撃が通じない今のムサシに唯一ダメージを通せる技。

 第四段階フェーズ・フォー:"防御貫通"だ。

 その名の通り『防御力を貫通』する。

 防御力が無限大だろうと、ダメージを通せるのである。


「……よくもまあ、こんな短時間で覚えられるものだね」


 撃ち込まれた腹部を抑えながらムサシは口を開いた。

 努力した年月を一瞬で追いつかれるのは面白くない。

 ましてや挫折も味わわずにこれほどの力を持ち、ここまで辿り着いたのが癇に障った。


「お前のマネしただけだよ。大した芸じゃない」


 タローは普通のことをしただけのような雰囲気でそう言った。

 別に嫌味があるわけではない。

 ただ、本当にタローにとっては大したことじゃないのだ。


(大した芸じゃない、だと?)


 ムサシは俯いた。

 その何気ない一言がさらに苛立たせたのだ。

 挫折せずに一瞬で追いつくタローに怒りを覚える。

 そしてそれ以上に、自分の弱さに腹が立った。

 剣を持つ拳に力が入る。

 その怒りに、憤怒の魔剣サタンが呼応した。


「ふざけるなよクソったれがッッ!」


 溢れる怒りで吠えた。

 憤怒の魔剣サタンの魔力がより一層強まり、刃の魔力が荒ぶった。


「え、なんでキレてんの?」


 首をかしげるが、それに対しての返答は研ぎ澄まされた斬撃であった。

 タローは目で追うと怠惰の魔剣ベルフェゴールで難なく防御。

 魔剣同士ぶつかり火花が散ると、さらにムサシの連撃が振るわれる。


「努力もせずに強くなった君には分からないだろう!

 挫折を味わっても、どんなに惨めに思っても耐えた弱者の気持ちが!」


 叫びながら凄まじい斬撃を放っていく。

 その攻撃には第四段階フェーズ・フォーの『防御貫通』も使用されており、一太刀でもくらったら即お陀仏である。


「他人の気持ちなんて理解できるわけないだろ。自分じゃないんだからな!」


 タローもタローで返答しながら攻撃を繰り出していた。

 ちなみに防御貫通も発動済みで、まともにくらえば即死レベルの一撃となるだろう。


「他人に理解を求める暇があるなら鍛錬に励めよバーカ!」

「誰がバカだ! 君だって知力100のチンパンジーレベルだろ!」

「お前それ言うなよ! けっこう気にしてんだぞ俺は!」


 それは、他人から見ればただの子供の言い争いであった。

 言っている内容も稚拙だ。

 ただ行われている戦闘は神がかり的なもので、目で追うことすら難しいものとなっている。

 神速で動くムサシと、馬鹿力のタロー。

 機動力ならムサシが勝るが、攻撃力と反応速度ならタローが上だ。


「ハァ、ハァ……」


 怒涛の連続攻撃にタローは次第に息が切れていく。

 ここまでジードにアリス、ハザードと強敵との連戦続き。

 まだ戦闘経験自体は浅いタローにとっても、今回のような長期戦は初めてであった。


「あぁあ゛あ゛あ゛! しんどいッッ!」


 正直言ったら、もうやめたかった。

 帰ってベッドにダイブしたい。フカフカの布団で寝たかった。


「だったらサレンダーすればいいじゃないか!」


 疲れるタローなどお構いなしに連続攻撃を続けるムサシがそう言った。


「そんなことできるかよ」

「へぇ、何故だい?」

「決まってんだろ――」


 ムサシの一振りを躱してタローは叫ぶ。


「タマコに100億持って帰るって、あんなにカッコつけていったのに……出来なかったらめちゃくそ恥ずかしいだろぉがぁぁあああ!」


「そんな理由で対決続けてたんかいッッ!」


 タローは羞恥心で戦っていただけであった。

 けれど不思議とムサシの心は軽くなっていた。


 過去を断ち斬るために強くなろうとした。


 生きる理由がそれしかないと思った。


 でも、それが今壊れようとしている。


 なぜなら目の前に、とんでもなくテキトーに生きてる人間がいたから――

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