第117話 真剣な奴とテキトーな奴
――敗者・男子病棟――
壮絶な死闘から謎の言い合いに発展したタローVSムサシ。
その始終をアキラはベッドに横になりながら見ていた。
「おいおい……なんだこの拍子抜けな展開はよぉ?」
割とシリアスな展開が続いていたので、てっきり最後までこのテンションで行くかと思いきやのコレである。
復讐心を燃やしていたがすっかり抜けてしまったアキラであった。
アキラの横ではクロスがまだ夢の中でタマコと戯れている。
映像を映している魔方陣を見ているのはアキラともう一人、レオンである。
「いや、これでいいんですよ」
アキラが声の方を見れば、レオンがホッとしたような顔をしていた。
「あん? なんでだよ?」
「アキラくん。君はこの戦いで何を思いましたか?」
唐突な質問返しにアキラはちょっとだけ狼狽した。
「言い方を変えましょう。
君は今、
質問の意図がイマイチわからず返答に困っていたアキラに、レオンがそう言いなおした。
そしてこれに対してアキラはすぐに答える。
「タローの野郎に
けど、どこかスッキリしてるんだよな……不思議とよ」
Sランクに食らいつくどころかそれ以上の強さを見せたタロー。
圧倒的戦闘センスで他を圧倒したムサシ。
最強を目指していたアキラには、この二人に憧憬にも近い思いを抱いていたのである。
タローに復讐しようとしていたが、ムサシに天狗の鼻を折られたことで、アキラは一周してスカッとしていたのであった。
そんなアキラの思いを聞いてレオンはニヤリと笑った。
(そう、それでいいんですよ――)
レオンは目を伏せると、先ほど様子を見に行った女子病棟の部屋の会話を思い出す。
そこではアリスが「……おうじがんばれー」と応援しているのを、タマコが「主殿は私の主じゃぞ!」と喧嘩している様子があった。
それを「やれやれ」と頭を抑えるエリスと、微笑みながら眺めているアンブレラの姿が。
アリスは食すことに憑りつかれており、当初はモンスターのような雰囲気を出していた。
だが今は、恋をして少女らしい、人間らしい雰囲気へと変わっていた。
タマコも依然会った時よりスッキリしているように見えた。
他にもジードとランの様子も見に行った。
二人とも相変わらずの仲良しっぷりであったが、新たな目標に向けて努力しようとしていた。
この戦いに参加した者は皆、何かの
どこか心に余裕が無い者が多く、瞳が曇っていた。
けれど、今は違う。
皆それぞれ大小差があるものの、良い笑顔をしている。
(コレでいいんです)
レオンは心の中で思う。
自身の思い描く平和に、心の闇など要らない。
この戦いは、その闇を晴らすためのものでもあるのだ。
***
ムサシはずっと思っていた。
過去に囚われ、
だから自分の弱さを断ち切るため、強くなろうとした。
それだけが自分の歩める唯一の道だと、そう考えていた。
だがタローを見て、そして戦う中で、その考えが変わろうとしていた。
怠惰でバカで、おおよそ一人前とは言えないようなダメ人間。
けれどタローは、そんな自分を変えようとはしていない。
むしろその欠点を、
タローは自分の欠点を知っている。
その上で、その事実を
(僕は……どうやら考えすぎていたみたいだ)
異世界に来てから強くなるために、"必死"に"真剣"に生きてきた。
もちろんそれは悪くない。
けれど人生は、意外にテキトーにしていても生きることができるらしい。
自分の弱さを断ち切れず、受け入れられなかったムサシ。
自分の弱さを貫き、受け入れたタロー。
結果として、まえに進んでいるのはタローであった。
どうやっても経ち切れぬ過去ならば、諦めて受け入れることが正解であったのかもしれないと、今ならそう思える。
(そっか…………諦めることは、弱いことじゃないんだな――)
そのとき、ムサシの最大解放は時間制限となった。
黄金のオーラは消え去り、最大解放の副作用が発動。ステータスが大幅に低下した。
「……なんかスッキリした顔してるな」
力が抜けて膝をついたムサシに、タローが口を開いた。
「副作用で身体は重いんだけどね。
……でも、不思議と心は軽くなった気がするよ」
「ふーん……そっか」
「タローくん」
「なんだ?」
「僕も……少しだけ、人生テキトーに生きてみるよ」
ムサシは笑っていた。
何にも憑りつかれていない、清々しい顔で。
まだ少しだけ心に闇は残っているけれど。
それでも、ムサシは確かに――
「それは、楽しそうだな」
タローも笑ってそう返した。
ムサシは自分から転移し、その場から消えた。
そしてこの瞬間、魔剣争奪戦は終了となったのであった。
冒険者ムサシ・ミヤモト 脱落
冒険者タロー 優勝
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