第109話 第四段階

 剣術<十二侍神じゅうにじしん

 これは魔剣:憤怒の魔剣サタンとスキル:二天一竜ニテンイチリュウを十二分に活かすために開発したムサシのオリジナル剣術である。

 憤怒の魔剣サタンの固有能力である断罪執行サタナエルは、万物を斬る絶対切断。

 そして二天一竜ニテンイチリュウは、二刀流で戦闘する場合に身体能力を限界まで上昇させる強化能力であった。

 極限の身体能力と最強の切断能力により、ムサシの剣術は初めて完成するのである。


 タローに使った十二侍神じゅうにじしん/子の刻ねのこくは連続の"超高速刺突撃"だ。

 万物を貫く魔剣を強化されたスピードで行うことで、1秒間に120発を10秒間。計1200発を撃ち込むことが出来る最強の連撃技である。




 ***




 子の刻ねのこくを防いだタローに待っていたのは更なる応酬であった。


十二侍神じゅうにじしん/酉の刻とりのこく!」


 ムサシは打刀の魔剣を横薙ぎに振るった。

 タローは怠惰の魔剣ベルフェゴールを棍棒に戻してそれを受け止める。

 だがそれはこの技の一端でしかない。

 本当の狙いは、一撃目を防いだ後の脇差による強襲だったのだ。


「おっ、とッ!」


 寸前で二撃目に気付くと、身体を後ろに大きくのけ反り回避する。

 が、バランスを崩し転倒。タローは態勢が悪いと判断し、地面を駆け出して距離を取る。


「……ん?」


 どうしたのものかと頭を悩ませていると、服の二の腕部分が赤く染まっていた。

 どうやらギリギリで掠っていたようだった。厄介なことに魔剣の特性ゆえ血は止まりづらい。

 仕方なく袖の部分を千切り巻き付け、簡易的な止血をしてやり過ごすことにした。


「魔剣、上手く使いこなしているみたいだね」


 止血の邪魔せず見ているだけだったムサシが呟いた。

 タローは応急手当をしながら、それに耳を傾ける。


第三段階フェーズ・スリーの『身体強化』をしてなかったら、間違いなく切断だったよ?」

「ふぇーず……なにそれ?」


 聞きなれない言葉にタローは首をかしげる。

 ムサシは苦笑いをしながらも、わざわざ説明した。


 魔剣には『共通能力』という全ての魔剣に備え付けられた能力がある。

 第一段階フェーズ・ワンの『魔剣耐性』と『魔力放出』。

『魔剣耐性』は魔剣の『固有能力』に対する耐性。『魔力放出』は魔剣の魔力を放出させることだ。

 第二段階フェーズ・ツーの『魔力付与』は、魔力を魔剣に纏わせることで攻撃力を上昇させる。

 そしてアリスもやっていた、魔力を身体に付与し強化する『身体強化』が第三段階フェーズ・スリーであるそうだ。

 ただ第三段階フェーズ・スリーは繊細な魔力操作を必要とするため、相当な訓練の末で身に着けることのできる領域。それを短時間で習得したタローの才能にムサシは「底が知れない」と称賛したのだった。

 しかし、魔剣にはもう一つ上の段階が存在していたのである。


「それが、第四段階フェーズ・フォーだ」


 ムサシ曰く、第三段階フェーズ・スリーよりも更に繊細な魔力操作を行うことで辿り着けることのできる魔剣の極致らしい。

 魔剣所有者の中でも、この領域に足を踏み入れることのできたのは二人。

 ムサシ・ミヤモトと、レオン・フェルマーのみである。


「アリスちゃんはもうすぐ辿り着けるかもしれないけど……君はどうかな?」


 ムサシが試すように問う。タローは「うーん」と首を捻ると、すぐさま答えを述べる。


「見たことねーから知らん」

「そっか……じゃあ見せてあげる」


 そう言うとムサシはタローへと近づき脇差の憤怒の魔剣サタンの切っ先を向ける。

 タローはそこに敵意のようなものを感じなかったため反撃はしなかった。

 ムサシは一度スキルを解除すると、深く息を吐き脱力していった。


「僕が全く力を入れずに、憤怒の魔剣サタンの能力も使わずに攻撃する。もちろんこの状態じゃ君の防御力は貫けないが――」


 するとタローは憤怒の魔剣サタンに魔力が宿っていくのを感じた。

 だが今までとは異なり、魔力が目に見えない。

 そのまま一切の脅威が感じられない刃が、タローの身体に触れると――


「――っ!」


 瞬間、心臓に衝撃が走った。

 猛烈な衝撃が皮膚、筋肉、血管すべてに流れていくような感覚に、タローは思わず膝をついてしまった。


「ウッ……ガフッ!」


 口から吐き出したのは大量の血。

 心臓を抑え息を整えようとするも、中々安定しない。

 今までくらったことの無かった種類の痛みにタローは悶絶してしまう。


「これが第四段階フェーズ・フォー――『防御貫通』だ」


 息を乱すタローを見下ろす視線は、酷く冷たいものであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る