第108話 タローvsムサシ

 二人の男がゆっくりと近づいていく。

 一人は武器と自身の身体に魔力を付与し、もう一方は漆黒の魔力でできた黒衣を身に纏い、それを刃にも鋭く纏った。

 両者ともに攻撃範囲内へと足を踏み入れると、互いに立ち止まった。


「準備はいいかい?」

「ああ」

「それじゃあ――いくよ!」


 それが開戦の合図だった。

 最初に攻撃したのはムサシ。高速で振るった打刀の憤怒の魔剣サタンの初撃であった。対してタローはそれを容易く怠惰の魔剣ベルフェゴールで受け止めた。

 ムサシはすぐさま脇差で刺突を放つが、タローが身をひねり躱す。

 躱し際、魔力で強化された身体能力から放たれる強烈な蹴りを浴びせるが、ムサシは身体を大きくのけ反り、バク転して距離を開ける。


「とりあえずいってみっか」


 距離が開いたところでタローは魔力をチャージ。力強く振るうと強大な魔力が射出された。

 ムサシは二刀の憤怒の魔剣サタンの刃を十字にクロスさせた状態のまま魔力の斬撃を飛ばす。

 その威力は互角で、両者の一撃は相殺しあい消えていった。


「次はこっちの番だ」


 攻撃はまだ続く。

 ムサシはスキルにより上昇した速度を活かしタローを翻弄。背後をとり斬ろうとする。レオンのスキル:強化五感スーパーセンスでも追いつくのがやっとの速度。

 しかし、それに難なく反応できるのがタローという冒険者の実力だった。

 振り向きざまに横薙ぎに振るった怠惰の魔剣ベルフェゴールを、迫る憤怒の魔剣サタンにぶつけようとする。


「――ッ!」


 ムサシは一目で一刀では受けられないと判断。脇差も加え二本の憤怒の魔剣サタンでタローの魔剣にぶつけた。

 衝突した途端、魔剣同士の波動が生まれる。その勢いは想像を絶するものであり一瞬で二人の周りは更地と化したのだった。

 それでも二人は周りなど目も暮れず、睨み合いながらの鍔迫り合いとなる。

 両者が火花を散らす中でムサシは笑みをこぼした。


「こんなに面白いのは久しぶりだ」

「……俺は面白くないけどな」


 戦いを楽しんでいるムサシと戦い面倒くさがるタロー。

 対極の思いを抱く両者だが、その実力は伯仲していると言えた。


「だったら、もっと面白くないようにしてあげるよ」


 鍔迫り合いが続く中、ムサシが動いた。

 後方へ跳び後退すると、二本の憤怒の魔剣サタンの先端をタローへと向ける。

 そのまま肘を曲げると、高速で前へと突き刺すように振るう。


「――十二侍神じゅうにじしん/子の刻ねのこく


 それは超高速の突き技。

 この程度ならば防げると思いきや、タローは目を見開いた。

 一発一発の威力は低いが驚いたのはその量。

 その数、一秒間に120発という常識外れの突き技であった。


「マジかよ」


 短く舌打ちをしたタローは怠惰の魔剣ベルフェゴールを盾にして防ぐ。

 が、あまりの膨大さに反撃に転じることが出来ない。

 約10秒間続いいたのちに攻撃が止むと、タローの腕は衝撃で痺れていた。

 だが、その程度で済んだのは僥倖である。

 危うく一切の肉片も残さずに死ぬところだったのだから。


「技を使うのは久しぶりだな……」


 ムサシは憤怒の魔剣サタンを手首を使いクルクルと回し弄ぶ。

 まだまだ余裕がありそうである。


「さぁ、もっと遊ぼうか?」

「……うわぁ、めんどくさ」


 軽口をたたくタローであったが、その頬には一筋の汗が流れていた。

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