第98話 辛味
少女が振るった暴食の牙は、容赦なくタローへと噛みつく――が、しかし
「――っ」
確かに見舞った一撃。
流血は免れまいと思ったが、
「――っあっぶねぇなぁ……俺は痛いの嫌いなんだよ」
タローに目を向けると、袖に切り口があるのが見える。
寸前で防御したようだが、腑に落ちない。
「……ぼうぎょりょくは食べたはずだけど……どうしてふせげたの?」
「お前が教えてくれたじゃん――
アリスは目を見張った。
どうやら攻撃の直前に
「……そっか、すごいね」
アリスは賞賛した。
というのも、魔剣の魔力コントロールはとても難しいのだ。
少し加減を間違えるだけで内側から崩壊する危険性もあるため、訓練するにも命がけの技術。
(……このたんじかんでおぼえたっていうの?)
タローは間違いなくステータスを上昇できることを知らなかった。
ということは、今のはぶっつけ本番ということになる。
それを成しえたのは、驚異的なまでのセンスというほかない――
(……面白い――)
アリスはニヤリと笑った。
いつもは自分より実力の低いものが相手だった。
楽に狩れる甘い食事は大好きだが、強敵という辛味も悪くはない。
「……たまには味変もいいかもねッッ!」
先ほどまでならタローも反応できたのだが、スキル:
まずアリスの攻撃は避けられない。
(――ま、だからってやることは変わんねーけどな)
俊敏に駆ける少女に、タローは相も変わらず
「……ばかのひとつおぼえ」
「いやいや、一つも貫いてみれば案外強いぞ?」
「……そんなわけない!」
だが、タローは喰らわれたと同時に魔力を次々と付与していく。
「……ほんとにばかげた怠け者だね」
アリスも負けじと魔剣を振るい続ける。
何度も、何度も、何度も振るい続けた。
「……すてーたすももらうよ!」
時折隙を見てはタローへと触れ、防御力や速度を喰い続けた。
何度も、何度も、何度も喰らい続けた。
何度でも――
何度でも――
もう一度、もう一度
喰らい、喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい喰らい……………――――
・・・
・・・・・
・・・・・・・
「――ふぃ~……だいぶ減ったな」
タロー
現在のステータス:
攻撃力:測定不能 → 測定不能(-10000)
防御力:9999 → 99(-9900)
速度:800 → 0(-800)
魔力:0
知力:100
(……なんてりょうなの……そこがみえない)
これだけ食われれば、死んでもおかしくない。
だがタローは膝こそついているものの、それでもまだ死には程遠い。
「……はぁ……はぁ……――」
これほど能力を酷使したのは初めてのことだ。
まさかこんなに長時間も魔剣を振るうとは思わなかった。
けれど、それもようやく終わる。
現在、タローの防御力は100程度。
魔力で防御力を底上げしても、アリスの攻撃力なら貫ける数値だ。
「……ようやく、そのくまはアリスのものになる」
「だーから、クマじゃねーよ」
「……アリスのものだもん。なんてよぼうとアリスのかってでしょ」
「俺はまだ負けてねーぞ?」
「……なら、これで勝ち」
アリスは近づくと、魔剣をタローの頭上に構えた。
だがタローは、それを避けようとはしない。
当然、タローの速度はもはや0。
逃げても追いつかれるため、無駄だと判断したのだろう。
「……死んで――アリスにくまちょーだい」
「いやだよバーカ」
「……あっそ」
アリスは、その言葉を最後に、
その場に、流れる血の音だけが響いた――
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