第83話 とある吸血鬼と不死鳥の物語

 それは今から600年も前のこと――


 ある場所にヴァンパイアの上位種であるクイーン・ヴァンパイアの娘がいた。

 ヴァンパイアは血を重んじる種族であり、他種族を何よりも嫌う種族。

 ただこの娘は、それが少々行き過ぎている部分があり、他種族どころか同族、果ては親兄弟でさえ自らに触れることを許さなかった。

 自分でも直そうと思う潔癖ぶりであったが、いつまで経っても反射的に嫌ってしまうのである。

 そのため、娘はいつも孤独ひとりだった。


 その娘に転機が訪れたのは100年後のこと。

 交戦中に不覚を取り、娘は生死を彷徨うほどの大怪我を負ってしまった。

 体質ゆえに一人での戦闘が多い娘に助けてくれる仲間はいない。


 死を悟った娘がひっそりと息を引き取ろうと目を瞑ったとき――


 ――……大丈夫かい?


 一体のモンスターが話しかけた。

 娘が目を開くと、そこに居たのは美しい青い炎を纏った鳥。

 優しい瞳でこちらを覗き込んでいる。


 ――あなたは……不死鳥フェニックス


 その鳥はコクリと頷いた。

 娘は大層驚いた表情を受かべる。

 それもそのはず、不死鳥フェニックスは滅多にその姿を拝めないモンスターであり、一部では『幸運の象徴』とされるほどの謎多きモンスターなのだから。

 その不死鳥フェニックスが目の前に現れて驚かないわけがない。


 ――っ!


 だが、娘は重症。

 驚いている暇はなかった。

 それを見た不死鳥は、娘に向かって一回だけ羽をはばたかせる。

 青い炎が娘の身体に引火し、身体を包むと、瞬く間に娘の傷が癒したのであった。


 ――ありがとう。おかげで助かった!


 娘は何度も感謝の言葉を述べ、不死鳥に頭を下げた。


 それからというもの娘は不死鳥のことを忘れられず、不死鳥の場所ところへ何度も足を運んだという。

 そうして不死鳥と交流を重ねていると、いつしか娘に新たな命が宿った。

 子が生まれた娘は母に、不死鳥は父となり、幸せが3人を包み込んだ。


 ……だが、それは長く続かない。


 生まれた子は母親譲りの美しい顔立ちと金髪を宿していた。

 しかし、その瞳はヴァンパイア特有の赤い瞳ではなく、不死鳥父親譲りのコバルトブルーだったのだ。


 血を重んじるヴァンパイアは、母親が『混血児』を生んだことを激しく糾弾した。

 血のつながった両親さえも見放すほどだ。

 そして、ヴァンパイアたちが出した結論は……――


[子供の処刑] だった。


 母親は涙を流し懇願した。


 ―― 自分の命はどうでもいい!

 ―― 子供だけは助けてください!


 だがヴァンパイアの意思は変わらない。

 子供を処刑しようと母親から取り上げようとしたとき……


 ――その子の父はわたしだ。


 空から一体の不死鳥が舞い降りる。


 そして不死鳥は言った。


 ――妻と娘に手を出すな。

 ――代わりに、わたしの命を差し出そう。


 そう言うと、不死鳥は自らの心臓をヴァンパイアの長に献上した。

 不死鳥は心臓を失ったことで、その場で消え去ってしまう。


 ――……良かろう。貴様の覚悟に免じて、その願い聞き届けようではないか。


 長はそう言うと、母親と娘の命を奪うことはしなかった。


 こうして母親と娘は処刑を免れた。


 しかし、その後は凄惨なもので、母は毎日のように罵声を浴びたという。

 そのことが起因し子供も蔑まれた。

 母は子に心配を掛けまいと、毎日笑顔で振るまっていた。

 ただ、子供はそんな母親のウソを見抜いていた。

 そして、このような状態の母を置いて、無責任に死んだ父を嫌った。


 以来、その子はめっぽう父親を恨み、憎んだという――

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