第51話 魔剣争奪戦(火種)
「――久しぶりだな。元気だったか?」
ギルド長室でドラムスが会話をしている。
相手は、和柄の羽織を着た冒険者。
「ええ、楽しくやらせてもらってますよ」
その男――ムサシ・ミヤモトは微笑を浮かべた。
相変わらず何を考えているかわからない、とドラムスは思った。
彼と初めて会った時もそうだった。
異世界に来たというのに、彼は特に取り乱すこともせず、ボーっと話を聴いているだけ。
だが、その実力は凄まじかった。
大小二本の刀を使った剣技で他を圧倒し、6人の転移者の中でいち早くSランク冒険者へとなったほどだ。
当時まだ12歳。転移者がいかに異常な存在なのかを証明した。
あれからもう7年。
その強さは、もうドラムスの計り知れないものとなっているのだろう。
「で、お前も魔王を使い魔にしたわけか」
ドラムスの言葉にムサシは頷く。
「魔王ハザード=ダイヤモンド。名前くらい知っているでしょう」
魔王ハザードの名を聞いて、ドラムスは戦慄する。
「三大魔王の一柱……最強の一角、か」
この世界において、最強の魔王は誰なのか?
そう質問したのなら、答えは三つに分かれるだろう。
ハザード=ダイヤモンド、アルバート=ルビー、アンブレラ=サファイア。
この三柱以外あり得ない。
残念ながら他の四柱は話題にもならなくなる。
魔王の座を狙うモンスターは後を絶たない。
これまでも多くの魔王が代替わりをしており、中には勇者と呼ばれる存在に討伐されることもあった。
だが、それは他の四柱の話なのだ。
ハザード、アルバート、アンブレラの三柱は、一度も代替わりをしていない。
つまり、負けたことが無い。
彼らの存在はもはや伝説となるほどだった。
今でも危険な存在として、数千年もの間語り継がれている。
唯一の救いは、彼らが自主的に人間へ危害を加えることがなかったことだろう。
「……最強、ですか……」
ドラムスの話は何一つ間違ってはいない。
しかしムサシは俯きつつ、意味深に『最強』という言葉を呟いた。
怪訝な顔のドラムスに、ムサシは顔を上げた。
「ドラムスさん。魔王の最強は誰だと思いますか?」
突然の質問だったが、ドラムスは考えた。
「そりゃあ……三大魔王の誰かだろ」
「誰、とは誰のことをさしていますか?」
その言葉にドラムスは黙ってしまう。
三大魔王の内の誰かだとは思うが、それ以上は皆目見当もつかない。
それはきっとドラムスだけではないだろう。
「では、質問を変えます――Sランクの中で最強は誰だと思いますか?」
「間違いなく
ドラムスは何の迷いもなく即答した。
確信があった。ムサシこそ最強と言わしめる理由があったから。
「ええ、僕もそう思います」
ムサシも当然というように肯定する。
そして、次のように続けた。
「ではタローくんと僕とではどっちが強いと思います?」
「――っ!」
今度の質問に、ドラムスは答えることができなかった。
「タローくんは
全ては予想でしかない……魔王もそうだ。
確かめたことは無い。一度もだ……」
「ムサシ、はっきり言え。何が言いたい?」
企んでいるような言い方が気になり訊いた。
ムサシはまるで「待ってました」というような表情をしたあと、ある提案をした。
「はっきり言ってタローくんのことが気になるSランク冒険者は多い。
アキラくんを倒した実力。それが本物かどうかを
そして――自分が何番目に強いのかも知りたい」
「確かめたいってお前……」
「……戦わせてみませんか――タローくんを含めた僕たち7人を」
「はぁ!?」
それはあまりにも話が逸脱していた。
タローの実力を知りたいのはわかるが、7人を戦わせるには理由がなってない。
すぐに話を止めようとするが、ムサシはさらに言葉を続ける。
「僕の情報網によると、アリスちゃんがタローくんを狙っているらしいですよ」
「はぁ!?」
「あと、ランちゃんのところの魔王ジードも、誰が最強かに興味があるとか。
その内誰かに喧嘩でも売りそうですよ?」
「なんだと!?」
「あとそれから……」
「まだいるのか!」
「はい。僕も興味あります。主にタローくんにですが」
「お前もかよ!?」
怒涛の情報とツッコミラッシュにゼーゼー息を切らすドラムス。
おそらくムサシに嘘は無い。
このままでは遅かれ早かれ魔王同士の戦いや、Sランク同士の戦い。そしてSランクとタローが全面戦争となると、さすがに大事になってくる。
「このままでは冒険者同士の争いに加えて魔王同士の争いになってしまいます。
だったらここで、いっそガス抜きさせたほうがいいと思いませんか?」
ガス抜き。
確かにそのほうがよさそうではある。
「Sランクの僕たちは誰が強いか。魔王にとっては大暴れできる機会。タローくんもどうせ狙われるなら一回で済む方が楽でいい。全員が参加する理由はあると思いますよ?」
冒険者と魔王の大暴れが突然起こればパニックになること間違いなしだ。
だったら、こちらが用意したフィールドで戦ってもらったほうがギルドの方でも都合がいい。
もちろん不安もあるが、突発的に起こるよりはずっといい。
「……わかった。お前の提案を許可する」
結果としてドラムスは了承したが、条件を提示する。
・場所はギルドが指定した場所、範囲内で行うこと。
・一般人に被害を出さないこと。
・相手を殺すことは禁止。
・その他の細かいルールはギルドが決定すること。
この条件に対しムサシは
「ええ。異論はありません」と了承した。
こうして、ギルド主催のゲームが開催されることとなった。
後にそのゲームはこう呼ばれるようになる。
魔剣争奪戦――と。
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