第6話 陽毬さんの経験
陽毬さんは、絶対に自分のやったことは正しいと思っている。
私自身に何かの問題でも起きても、必ず自分の非を認めなかった。
いや、自分は間違ったなことをしていない。
他の人が間違ったことをしているので、注意をしていただけだ。
しかし、みんなは聞く耳を持っていなかった。
ある日、早朝に登校してきたいじめっ子の凛さんが、目立たない莉子さんの机の上に葬儀花入りの花瓶を置いた。
いじめをやめない凛さんを目撃した私は、もう一人の私が暴走して、置いた花瓶を持って、凛さんに向けて投げた。
パリーンと花瓶を割れた。
凛さんは、割れた花瓶の破片を刺されたり、水を浴びられたりした。
飛び散った赤い液体と水が混じって、凛さんの辺りだけホラー映画のような光景になった。
凛さんは強烈な痛みで泣いていた。
パタパタと足音が聞こえて、扉を開いたのは先生だった。
「どうした!何か割れた音がしたけど?」
涙と鼻水を流しながら、陽毬さんが殺傷しました!と先生に訴えた。
「何をやってんの!陽毬さん!」
野太い声が教室の壁に反響した。
陽毬さんはフルフルと首を振って、いじめっ子に指を差した。
「この人が莉子さんの机に葬儀花入りの花瓶を置いたと、見ました。何度も注意をしたのに、この人が聞く耳を持っていなかったので、注意をするより、体で注意をさせた方が理解できると思いました」
「陽毬さん…それは言い訳を言うな。自分の非を認めろ、そして凛さんに謝りなさい!」
「嫌です!私がやったのは、正しいことです」
「いや、正しいか、間違ってるか、問題ではない。陽毬さんがやってる行動はわかってる?あなたが凛さんに傷をつけた。人を傷つける行為は非行だ」
真っ赤な顔で怒鳴る先生の後ろにニマニマと笑っている凛さんがいた。
この表情は、自分ではなく、陽毬さんの方が間違ってるよ、と見下すような態度だった。
凛さんの態度を見ると、再びもう一人の自分が暴走し始めた。
殴ろうと思ったが、男性の先生に押さえられた。
相手は男性なので、抵抗するのが難しかった。
凛さんは私のところに近づけてきて、耳元で小さな声で囁いた。
「悪があっても、みんなは見逃すんだもん。正義は誰にも見られないわ」
その一言を聞くと、言葉が詰まった。
確かに、悪いことをしても隠し通せば、誰にもバレはしない。
逆に正義の人が悪人として扱われてしまう。
この世は歪んでいる。
凛さんのような人が、この社会をダメにする。
ダメを拡がる負の連鎖をここで止める必要がある。
誰が止めてくれる?
先生に止めてもらう?
いや、先生は普段に職員室に引きこもっているので、教室で何が起きているのか把握できていない。
ダメだ…大人たちも聞く耳を持たない。
ついに先生や大人に信用することができなくなってしまった。
次の日から学校に行かなくなった。
「——ということで、社会不適合者と灼印を押さえられた」
「…そうだったか。あれ?陽毬さんと僕の経験に共通点がある?まさか…僕たちをここで閉じ込められたのは——」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます