第5話 仁さんの経験

その頃の仁さん・陽毬さんは大きなTVを見ている。

一体何が起きていたか、頭の中で分析をしようと思うが、陽毬さんの騒ぎ声がうるさい。

陽毬さんの口から「ヤバい」を連呼した。

仁さんは陽毬さんを見ると、語彙力がないのかと、内面で笑った。

「あの、静かにしてください」

「バッキャロ、落ち着けるわけはないわ!」

「まあまあ、興奮しても何の解決ができない。だから今はとりあえず冷静にして」

陽毬さんはムーっと口を尖らせて、黙った。

大きな嵐がようやく収まってきた。

「じゃあ、なんで私たちがあそこにいるの?」

大きなTVに指を差しながら話した。

「おそらく、あそこにいるのはAI人間かもしれない。AIによって、僕たちの動きを分析して、そして自分にそっくりな人間をコピーする」

「AI?何それ?SF映画しか出ないわ」

仁さんはSF映画が好きならオタクじゃないかと、腹を抱えて笑った。

「だよね、バカ馬鹿らしいな話かもしれないが、今の技術では、人間に近くまでAI人間を作る可能性が高まっている。だから、SF映画だけしか存在しないものが現実化になるかもしれない」

「え…そんな…聞きづらいけど、私たちはなんでここにいるの?」

「まだ正確に言えないが、多分僕たちは社会不適合者だと思う」

「社会不適合者?」

頭を傾けた。

知識が足りなさすぎて、仁さんの話に追いつけなかったそうだ。

「社会不適合者とは、言い換えると、社会に相応しくない人間だ。例えば、犯罪をする人、暴力する人、引きこもりをする人、協調のない人、ルールを守らない人など。非常識な行動をする人は社会で不要とされている」

「…仁さんも社会不適同社?」

「そうだ、僕だけなく、陽毬さんもだ」

心臓に鐘鳴らしをして、心臓を揺さぶった。

生まれた後、すぐに立ち上がれない鹿のように、体が震えた。

「ぎゃあぁああ!嫌だ嫌だ嫌だ!思い出したくない!」

頭を抱えて、床に膝を付けた。

頭が割れそうくらいに痛い。

「おい、大丈夫か?」

背中を撫でようと思ったが、反射的に仁さんの手を追い払われた。

「私を触らないで!」

亀のように体を縮めて、ブツブツと小さな声で囁いた。

もしかしたら…自分は社会不適合者だと受け止められなかったかもしれないと、仁さんが思った。

無理に慰めると、さらに悪化してしまうので、今は自分を落ち着かせることが必要だ。

仁さんは、陽毬さんの隣に座った。

「なあ、陽毬さん。僕の話を聞いてくれるか、聞きたくなければ、聞き流しても構わない。僕は——」

仁さんは、昔太っていた。

ぽっちゃりではなく、デブレベルだった。

小学生と中学生の時にいじめられた。

他の人と比べて、太っていて、僕のことを醜いなと思っているかもしれなかった。

けど、実際には僕の学校では教室カーストがある。

上位カーストの生徒は、頭が良くて、社交性の高く、スリムの方が多い。

逆に下位カーストの生徒は、頭が悪くて、社交性が低く、オタクなデブな人が多い。

僕は頭が悪くて、デブなオタクであるので、下位カーストの生徒であった。

上位カーストの生徒は、暇つぶしとして僕をおもちゃ扱いした。

僕の体を触れるときは、棒を突いた。

やめて、普通に手でポンポンと叩いてと言ったが、上位カーストの生徒がこう言った。

「いやーだ、おめえの体を触れると、下位カーストの菌を移してしまう」

僕は汚くはないのに、他の生徒と同じ人間なのになぜ酷い目に遭わなければならないのか、と怒りを我慢した。

何度も、自分のノートを切り破ったり、トイレの中で水を浴びられたりして繰り返した。

僕は暴れないようにずっと我慢した。

両親と先生に迷惑をかけてほしくないので、言わないで我慢した。

我慢、我慢、我慢の日々を続いた。

でも、ある日に事件が起きた。

気づいたら、手をカッターにした。

目の前に上位カーストの生徒の手から血が流れていた。

自分が持ったカッターと上位カーストの生徒の手に血を見て、何が起きたのか頭の中で整理をした。

もしかしたら、無意識に自分の体が勝手に動いて、他の生徒に傷つけさせた?と気づいた。

人を傷つけるのは初めてだったので、パニックになり、この教室から出て行った。

先生が僕の両親に連絡をした。

校長室で傷つけた生徒に謝罪をして、停学になった。

しかし、停学を解消しても学校に行かなかった。

いじめられるのが怖くて、学校に行くのを拒否をしていた。

ずっと自分の部屋で引きこもった。

あんまり体を動かさないので、お腹をすいていなかった。

母が作ったご飯を食べず、パソコンや本を読んで過ごした。

そのおかげで、痩せて、本やパソコンから多くの知識を詰めて頭が良くなった。

「それが、最悪の人生だ」

瞑った目を開いて、陽毬さんを見ると体育座りで座っていた。

ぼろぼろと涙が溢れていた。

「あははは、なんで泣くの?」

「ううん、辛いな気持ちはよくわかる。似たな経験をしてるから」

「…陽毬さん、どのように受けていた?答えたくなければ答えなくてもいい」

「ううん、仁さんが話してくれたので、私も言う。私は——」

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