第3話 零さんの母さん
「零さん、なんで男性として生まれたのにどうして見た目は女性だと間違われるだろう?」
椅子に座っている僕の母さんに問われた。
「知らないわ、だってさ生まれたのは母さんよね」
この言葉は何度も聞いている。
だから、僕は女性になりたくて生まれたわけはないだ。
なんで僕に言うのか意味がわからなくて、吐き捨てるように言った。
「はあ」とため息を吐き、額に手を当てた。
「ごめん…私のせいだ。私のせいで零さんを苦しませてしまった」
手と腕で母さんの顔を隠していたので、どんな表情なのか分からなかった。
でも涙が腕に流れている。
自分に不安をさせないように涙を見せなかったと母さんの気持ちを察した。
僕は…女性だと勘違いされて、時々誘拐されることがあった。
無理矢理に服を脱がせられたら、僕が男性だと分かった。
でも誘拐した男は「なんだか、おめえは男なの?しかしさ、見た目は本当に女性っぽいな。もうダメだ。興奮してきた。君は男なので、警察に通報しても、なんで拒否をしていないのかと呆れるだろう。ヤらせろ!」と言った。
僕は嫌だ嫌だと強く拒否をしていたが、誘拐した男の方が強かった。
拒否をしていた手を退かせて、強引に服を引き破った。
そして、自分の体を汚してしまった。
傷まれた身体の痛みは今にも忘れられない。
目の中に涙を溜めた。
自分は男性だ。
なぜ女性みたいな体を生まれてしまったかな?
女性みたいに見えるのは、悔しい。
目の中に涙を溜めすぎて、頬を涙が伝った。
「怖い。男性に怖い。男性と働きたくない」
母さんに生まれて初めて不満をぶつけた。
母さんは哀れな目の中に僕の姿を映っていた。
「ごめんね…でもニートは絶対になってはダメよ」
「うん…わかってる」
「男性は欲求不満を満たすだけしか考えない。私も男性のこと怖いよ。私を見て何を想像しているかわからない。でも…いつまでも怖がり続けると、何も進んでいないと同じことになる。恐怖という気持ちはよくわかる。でも前へ進まなきゃならないと何も変えることができないわ」
母さんの言葉を聞いて、拳を握った。
母さん自身も他の女性も僕と似たように経験をしてきた。
本当は嫌と拒否をしても力の差が違うので、拒否できなかった。
「良心の男性だけ残して、他のクズは排除すれば良いのに…」
「そんなに考えないで。良心の人間ばかりだと面白みがなくなってしまうから」
口は笑顔を作っているが、目は笑っていない。
母さんの瞳を見ると、なんだか男性の方が支配が強いので何の抵抗ができないので仕方ないように見えた。
ズキっと胸を痛んだ。母さんの瞳を脳裏に焼き付けた。
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