第133話 名誉な役目

あらすじ シンの行方を見失ったくのいち。


 さらに一ヶ月があっさりと経過した。


 泥忍法で地中に潜ったシンが姿を消したまま、その手がかりを見失っている。他の組織も表だった行動を取っていないが、出遅れているのは確かだった。後手先手の問題ではない。


「こちらから動きましょう」


 シズクは遂にその言葉を口にする。


「焦れたのか? 待つことも仕事だ」


 クノ・イチは呆れた様子だった。


「政治的に手出しできないのだろう?」


 修行は新たなフェーズを迎えたようで、最近は魔法を新開発しているそうだ。空中に浮いた無数の手裏剣が自分に向かって飛んでくるのをひたすらクナイで捌いている。


 自動で敵を攻撃する魔法。


「クノさんにお伝えしていなかったことがあります。今日はその、お伝えしないことを決めた大臣と話をして許可を得てきました」


 金属が弾け擦れ合う音にかき消されないように、そして自分を奮い立たせるように大きな声を出して、シズクは覚悟する。


 殺されるかもしれない。


 恐怖。


 だが、それ以上に、見えないところで確実になにかが進行している。シンさえ手に入れればあとは無視すると言い切ったクノ・イチは横取りのタイミングを何ヶ月でも待つ気なのだろうが、懸念材料はもうシズクの胸の中に留めておける大きさではない。


 ここで黙っていたのでは未来がない。


「……ふむ」


 パチン!


「!?」


 トトトトトトトッ!


 クノ・イチが指を鳴らすと手裏剣が一斉にシズクに向かって飛んできて、身体スレスレ、スーツの表面を引き裂いて次々に背後の木に、整然と並んで刺さっていく。


 服はすべて剥かれた。


 正確無比だ。


「それは、シンに隠されたものが生物兵器だという話だな。オオクスなら抱いてやって口を割らせたぞ? 他になにかあるか?」


「……知って、いたんですか?」


 シズクは顔面蒼白になる。


「むろん、恋人だからな」


 クノ・イチは無造作に胸を掴んでくる。それは潰しても構わないという意思表示に他ならず、命を握られた状態そのものだった。


「じゃあなぜ」


「新しい人間を調教するのは面倒だからだ。ミドリとの窓口として、小心で、自己保身を第一に考える人間は適当だった。怒ってはいない」


「そうではなく、そこまで知っていて、シンくんをすぐに取り戻さない理由は……ひぎっ」


 シズクの足が地面から離れていた。


 空中に浮いて、そして膣内になにかが挿入されている。乳房も不自然に引っ張られたように上に向かっていた。重力に逆らった力が、性器を中心に自分の身体を持ち上げている。


 怒ってはいない?


「理由を聞いてどうする?」


 クノ・イチは人差し指を立てた。


「それ、はァっ、ンっ」


 その第一関節が目の前で曲げられた瞬間に、敏感な場所が刺激されて女の声が出てしまう。すでに魔法にかかっているのが明らかだった。


「どうする?」


 視線を合わせて首を傾げる。


「ひっ、ひゃ、アひっ、ふ、うふゅ」


 くいっ。くいっ。くいっ。


 指先の動きに合わせて、快楽が踊った。


「シズク。逃げる気なら遅すぎた。選択肢を与える気はない。シンにそれを隠した人間をあぶり出す、そして神を産んでもらう」


「……ィ?」


「名誉な役目だ。よかったな」


 そう言うと第二関節まで曲げる。


 絶頂が意識を根こそぎ浚っていった。

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