第115話 ストレス

あらすじ おなか痛い。


 一般家庭のトイレ無断使用。


 つまり空き巣。


「……あー」


 また罪を重ねてしまった。


 そんな後悔をしつつ、僕は迷うことなくその家のクローゼットを開け、着替えを物色する。窃盗だ。忍者装束にはそれなりのメリットがあるのだけど、潜伏して逃げる場面では目立ちすぎる。


 高くなさそうな服を選ぶので許して欲しい。


「女物ばっかり……」


 小柄なので大抵は着られるけど。


 細身のデニムにパールホワイトのシャツ。


 ちんちんが窮屈だけど仕方がない。


 スカートを選ぶ気にはなれない。


 追っ手がいる。捕まったときに女装している恥を考えてしまうのは弱気だけど、考えない訳にもいかない。あとは衣擦れの音を考えると化繊じゃない方が良い、というのが判断基準だ。


 ちょっと肌寒いから上着が欲しいところだけどレディースはなんかちょっとオシャレ感が出てしまうので選択が難しい。注目を集めてしまうことについてはタカセさんからも散々言われてる。


 無事だろうか。


「探しに戻るのは、無理だろうし」


 心配だけれど、狙われている僕が戻ったところで敵を集めてしまうだけなのもわかる。連絡手段もない。シマさんが入手してくれた足のつかないスマホ、セックス中でも持ち歩くべきだった。


 それもこれもサタカが悪い。


 テントで大人しくいちゃいちゃ出来る環境だったらこんなことにはなってない。だが、そのあいつを呼んだのはタカセさんである。僕はだれに八つ当たりをしたらいいんだ。


 あいつが泥の底に沈んでればいいのに。


 マウンテンパーカーを被って冷蔵庫から魚肉ソーセージを頂いて、牛乳も飲んで、ノートPCを起動して情報を収集する。すでに事件として大きく報道されていた。秋田県だったのか。


 自分がどこにいるかもわかってない。


 現場から直線で三十キロほどまで逃げていた。


「どうしよう」


 助けを求める相手がいない。


 十字軍に魔女、そしてヤバい女の子だ。


 よくわからない追っ手が三つ以上、僕がなんとかしようというのは無謀だ。奥の手は一回使ったら二度目はない。使われた側はなにが原因かわかりきってるから、格上相手じゃ腹を触るとかどう考えたって上手くいかない。


 凍った身体の男たちに効果があるか。


 あの女の子は絶対無理。


 けれど、タカセさんを信じて一人で逃げるにしても、連絡手段がなければ合流できない。逃亡生活だったから、いざというときの避難場所とかも決まってない。浅はかだった。と言っても、僕はママ活で忙しくてそれどころじゃなかった。


 そういうこと、考えといてよ!


 お金は稼いでたのに、僕の手元にないし!


 一銭も!


 タカセさんもシマさんも根っこが楽観主義なんだ。いつか一括払いで家を買うから貯金するとかありえないこと言ってて、でも女性二人に対して僕が意見するとかできる訳なくて、ああもう。


「……」


 過去を蒸し返して怒ってる場合じゃない。


 今。


 これから。


 もっかいトイレに行こう。


 ストレスで普通におなか痛い。

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