第107話 神秘
あらすじ やるかやらないかで言えばやる。
断れる訳がない。
「すっごい疲れたんだけど……」
タカセさんは言う。
「違う顔って、言うから」
外でやった。
テントから出て、木に登って、アクロバティックなことをした。あいつに観察されてる不安があって密室のムードには耐えられそうになかった。最中に背後から尻を犯される、そんな想像が頭から離れなくて動き回った。
派手に。
「……ニコは、強くなったね」
葉の枯れ落ちた木の枝に座って、タカセさんは乱れた髪を手櫛で直そうとする。六ヶ月前より伸びた髪、華奢に見えて引き締まって鍛えられた身体、力強い太もも、きゅっとしたおしり。
僕は少し下の枝に立ってそれを見上げてる。
「セックスで言われても複雑なんだけど」
ずっと見てたし、見慣れてもいたのに、抱きしめたあとは新鮮に感じるのはなんでだろう。女好きと言われたらそれまでだけど、僕は、世界にひとりとして同じ女性がいないことにいつも感動する。神秘だ。
「それだけじゃないよ」
タカセさんは僕に抱きついてくる。
二人が乗ると枝が軋んで折れそうだった。
「ホントは、これで終わりにしようかって。あたしは……クノ・イチに復讐しようと思ってたのに、ニコといるとそれがどうでもよくなりかけてて……怖かった」
「終わりって」
「ニコを、カンダ・シンに戻そうと思ってた」
タカセさんはちんちんを触る。
「それがニコを守る最良の方法だって」
「……負けるつもりで勝負を?」
撫でられて、その手に滲む冷たい汗がはっきりと感じられた。刃物を握って人間を刺すような緊張感だ。僕はまだやったことないけれど、身代わりを刺すとわかってる訓練でさえそうだ。
死ぬ気だ。
「わかるんだよ。距離が遠ざかってる。縮まってない。クノ・イチは今も強くなってる。あたしは、もう才能の頭打ち。でも、ニコを諦められない。なら、断ち切られるしかない。復讐を果たせず、無念を飲んでも」
「……僕は」
「わかってる。ううん、わかった。たぶん、ニコのセックスの基準がクノ・イチなんだね。どんな女でも嫌な顔しないんじゃなくて、最悪も最高もあの女が持ってるから、冷静なんだ」
タカセさんは僕の言い訳を許さなかった。
「……」
「でも、膣内には出してくれた。なんで?」
「離れたくない」
僕は言う。
「繋がりが、欲しかった。おねえちゃんと僕は、色々とねじ曲がって、本当のことがどこにあるのかわからないから。僕の子供を、産んで欲しいって……色んなママさんに産んで貰うのかもしれないけど、それでも僕の子供は」
「クウだよ!」
「「!?」」
完全に意識できなかった。
それは僕の頭の上に乗っていて、たぶん幼い女の子で、しかし羽のように軽く、それでいて力強く頭を掴む鋭い爪があった。皮膚を破らない程度に加減された痛みだけが急に現れている。
「鳥? 人? ……なに?」
言いながら、タカセさんは枝を落とした。
「たかいたかーい!」
空中に投げ出されたことで青い髪の女の子は翼を広げて飛んだ。人間じゃなかった。けれど、知っている感じがする。
「ニコ、服」
「ども」
セックスに没頭しつつも対応の準備は怠らない。僕たちは師匠と弟子として、おそろいの忍者装束を一瞬で身にまとい。その生き物と対峙する。敵対心は感じないけれど、恐怖はあった。
「強いよ。間違いなく」
「はい」
二人がかりでも勝てるかどうか。
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