第88話 マッチポンプ
あらすじ シンの評判は一人歩きしている。
「私が好きな美少年は二次元の……」
ハツネは言う。
母の影響でオタクに育った。
その事実は隠していない。
ただ、好んで美少年の出てくる作品を追いかけていることは隠していたつもりだった。妹たちが生まれてからは遊びに出かけることがまずなくなったのでインドアな趣味として加速気味で、スマホには絵師たちの描いた二次創作が大量に保存されている。
美少年同士が絡むとより良い。
「だれかが助けてあげるべきなのよ」
母は言った。
「……なんの話」
「罪悪感はあるってこと。自分の生活のために、少年を利用することについて。でも、まさか自分の子供と同い年の子を恋人にするなんてことも出来ない。それじゃ利用してるのと変わらない」
「私に助けろって?」
ハツネは母の言いたいことを理解した。
ママ活に興じる女の娘として知り合って落とせ、と言いたいのだ。パターンだった。母の得意とするドロドロとした性的関係を軸にした恋愛マンガは、ハッピーエンドで終わる場合、プラトニックな相手と結ばれて終わる。
母との行為を悪として、娘が善を為せ。
「自然な流れでしょう?」
自分をネタにすることに抵抗のない母だ。
マッチポンプでも。
「現実はマンガじゃないよ? お母さん」
親子ながら同意できない。
「それは努力次第よ。マンガでどれだけリアリティギリギリのラインを攻めても現実はあっさりとそれを超えてくることがある。恋愛なんて日常のことなら、いくらでも超えられる」
根性論だった。
「実例のひとつぐらいあるの?」
根性論に走るのは説明できないときだ。
「姉の友達の同級生がハリウッドスターの子を産んだって言ってた。プロモーションで日本にやってきたのをSPに金を渡してホテル直撃して、あとは付け焼き刃の英語で押し倒したって」
「……すごいねー」
伝聞にもほどがあった。
マンガにもならなそうな話すぎる。
「ニコです」
しかし、一週間後、母が美少年をアパートに呼んだ現場にハツネはいた。平日、早朝、学校は休んだ。妹たちは伯母が一時的に預かっている。伯母もマンガ家で、おそらくママ活の件は聞いているはずだ。姉妹揃っておかしい。
「噂以上ね……」
そして母が頬を赤らめていた。
「どんな噂になってます?」
ニコと名乗った少年はすぐさま上着とシャツを脱いでいた。細身で引き締まった肉体は、幼い顔立ちとは裏腹に男のフェロモンを出している。明らかに色気があるのだ。熱を感じる。
「……」
ハツネは生唾を飲み込む。
現実の異性に欲望したのははじめてだった。
「その、顔が良いって、とてつもなく。写真の一枚もないのに、だれも否定しないレベルで、それと……ち!?」
「中に五回は保証します」
躊躇なく全裸になったニコは言った。
「一日コースなんで、どんなセックスでも僕がそこまでは努力します。それ以上に関してはママさん次第になります。時間内であれば、避妊具に精液を貯めてとっておくこともできます」
慣れた様子で説明する。
「……」
母はコクコクと頷いていたが視線は下半身に向いていた。それは異様なまでに太く長く血を漲らせていた。興奮している様子のない美少年の表情と一致しない恐怖がある。
「なんと呼べばいいですか? もちろん本名じゃなくても結構ですし、乱暴にしてほしい? のがご要望とのことなんで……適当に罵倒しても良いですけど。えーと、演技力にはあんまり期待しないでくださいね?」
「ワカ、って呼んで?」
母は本名を名乗る。
「……お母さんが惚れてない?」
ハツネは小さくつぶやいた。
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