第89話 やめとけばよかった
あらすじ ミイラ取りはミイラになる。
「三回か、四回射精したら、ハツネは学校を早退したって理由で現場に踏み込んで? 遠慮はしなくていい、堂々としてればいいから」
事前に母は流れを説明している。
「あくまでママ活であることは知らないフリをして母親を助けるという体で、つっかかっていく。ケンカになるかもしれないけど、相手とは一番高い一日コースで契約してるから、逃がしたりはしない。あとは流れね。いくつかのパターンは考えられるけど……初体験はここで済ませる?」
「そこまで行くの?」
興味本位、話半分だったハツネは、母が想定する展開に自分とのセックスまで含まれている事実に怖じ気づく一方で、現実味を帯びることで高揚感もあった。セックスに興味がないなどと言えばウソになる。
親公認で美少年とされる相手、安全な遊びだ。
経験があって損をするものではない。
大人になっても経験すらない人たちが多いというデータさえある。恋人を作りたいと思ったことはないが、チャンスを逃して引け目を感じるよりは人生のプラスになるかもしれなかった。
「男は身体でつなぎ止めるのが一番なの」
母は言った。
「ママ活には慣れてるでしょうけど、だからこそ、ハツネの同世代の身体は新鮮に感じるはず。避妊はちゃんと見ててあげるから、ガツンとやられて、責任を取らせればいい」
十四歳でマンガ家としてデビュー、初連載がそこそこのヒット。
お金を持って男と遊び回り、散財しつつも父と出会って、十七歳でハツネを産んだ。顔出しこそハツネの懇願もあってしないがエッチな身体のマンガ家として雑誌に胸元の開いた写真ぐらいは載せている。巨乳の部類ではあった。
説得力がない訳ではない。
「痛くならないなら……」
ハツネは親を信じてもいた。
「よしよし、それでこそ我が娘」
第一目標は第四子の妊娠。
第二目標はハツネの初体験。
そのために母親のセックスを見届ける。
「……やめとけばよかった」
後悔していた。
押し入れの中から息を殺して二時間。
繰り広げられたセックスは、ハツネが想像していたものとはまるで違うものであり、母が描いてきたマンガに出てきたものとも別次元にあることは確かだった。
「はひっ、ひっ……はっ、はっはっはっ……」
荒い呼吸を吐いて仰向けに転がされた母。
娘に見られているという意識からか、美少年をリードするような、乱暴にされるというシチュエーションの中で大人の余裕を見せようとしていたのもつかの間で、途中からは叫び声を出そうとする口を塞がれるような有様だった。
射精はまだ一回。
助けに行くタイミングではない。
「休憩しますか?」
なにも言わず冷蔵庫にあった牛乳をコップに注ぎながらニコは言う。聞いていた話と違う。名器で男は十分も保たない、はずが母ばかりが絶頂して美少年はそれに遠慮して止まってばかりだ。
布団はビッシャビシャになっている。
「それともやり方を変えます? ワカさんは敏感みたいだから、もっとゆっくりやる方が良いかもしれない。別のママさんに教わったんですけど、時間をかけるとすごく出せる方法が……」
「!?」
牛乳を飲むニコの視線が、押し入れの隙間を見たような気がして、ハツネは震える。一回出したぐらいでは萎えてもいない。表情は興奮した様子もなく冷静で、セックスをすることにはなんの感慨もなさそうだった。
この美少年は身体ではつなぎ止められない。
そんな確信を抱くには十分な態度だった。
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