第78話 そういう設定
あらすじ タクシー運転手は思わず止まった。
広い道路まで突っ走ってそのまま乗り込む。
後部座席で僕を挟んで二人は座った。
「那須塩原駅まで、とりあえず五万。不足分は追加するんだわ。はいはい。出して出して」
シマさんはデカい財布から無造作にお金を出した。横目で見たけど、かなりの額が入ってた。お嬢と呼ばれるだけはあるのか、現金で持ってることが異常なのかはわからない。
「新幹線を利用しないのですか?」
運転手は女性だった。
「その方が……三人だとお安くはならない?」
首を軽く曲げていたけど、その視線が僕の下半身に向いていることはわかった。サングラス越しなのでこっちが見てることはわからないのだろう。興味が激しく、そして躊躇いもあった。
「いいから。アニキの機嫌損ねないで?」
タカセさんが不良っぽく凄んだ。
アニキ?
僕のことなんだろうか。
そういう設定で通すってことなのか?
なんで僕には打ち合わせしてくれないの?
「ひゃい」
ともあれ、迫力のある声で、二人が水商売風であり、僕がそっちの筋な感じだと受け止めたようで、視線は正面を向き、発車する。最初にガツンとやっておくことで余計な詮索を避けるテクニックのようにも感じられる。
「楽しかったんだわ。ふあー」
ごそごそとちんちんをしまいながらシマさんが言う。心底そう言ってるんだろうと思う。笑顔はずっとだったけど、頬まで赤くしてる。
「あんなこと言って、帰れないよ?」
呆れた様子でタカセさんが言う。
「帰る? シマちゃんもう戻らないつもり」
「なんで?」
「タカセだって、帰らないつもりなんだわ。なら一緒について行く。んもー、友情パワー!」
「そこまでされても……」
「ヤり捨て?」
「……話を聞いてたでしょ? 危ないこともあるってことだよ。あたしに期待しないでよ? 悪いけど優先順位はアニキより低いから」
「話を聞いたからなんだわ。イチさん? シマちゃんの理想のタイプな気がする……乱暴にされたいんだわ。乱暴にされてるニコも見たい」
「あー……そっちね」
タカセさんはさらっと流したけど、
「……」
それ、僕が捕まってない?
くのいちの話をしたときに、外見についてしつこく質問してきたのを思い出す。完全に個人的興味だった訳だ。自由だ。なんだかうらやましいぐらいに、好きに生きてる。
「那須塩原になにがあるの?」
「別荘。パパが愛人囲ってたんだわ」
「ふーん。アニキと温泉はいいね」
気のない返事をしながら、タカセさんはシートベルトを引っ張って僕に擦り寄ってくる。耳元に息を吹きかけ、舐めた。
「……っ」
「運転手の反応見てるから、ごめんね」
そして小声で囁く。
「ん」
なるほど、こっちの会話や行動にどこまで聞き耳を立ててるか把握してるのか。公共交通機関よりは多くの目に触れないけど、長時間の密室になるから様子を見ておかないといけない。
忍者って色々と気を遣うんだな。
「お、お客さん、あまり過激な……ことは」
「ごめんなさーい」
そして急に明るく誤魔化した。
「そっちがあたしたちとアニキのラブラブっぷり見たいのかと。思って……ねぇ? 気にしてるみたいだったから。サービス」
「……はは」
困り笑顔で運転手さんは首を振った。
「アニキは到着まで寝てていいよ? 疲れてるでしょ?」
「……」
僕は頷いた。
疲れてる理由のほとんどは二人由来だけど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます