第77話 コスプレデート

あらすじ シンの家庭は教育に良くない。


 二人の支度が済んだ頃には朝だった。


「どう? ニコ」


 タカセさんは自信ありげに僕の前に立つ。


 どちらかと言えば地味めで、あんまり特徴のなかったセミロングの髪はウィッグと組み合わされてしっかりと盛られていた。ぐねぐねでうねうねで身長が伸びたように見える。


「どうって……派手だね」


 感想に困る。


「むふー、水商売ファッションなんだわ」


 当然のようについてくるらしいシマさんのファッションも合わせていた。水商売。こう言っちゃ怒られる気がするけど、丈の短いワンピースでノースリーブで、その上に薄手のジャケットを羽織ってて、いかにも安っぽい感じだ。


「はい、サングラス」


 タカセさんは渡してくる。


「……僕?」


 言われるままにかける。


 似合う気はまったくしない。


「それで、こう……ワックスでオールバックにしてそうしてれば少なくとも中学生には見えない。あたしたち二人を侍らせてれば、いかにも朝まで遊んでた感じになるから」


「口元に貫禄が足りないからこのマスクも着けるんだわ。シマちゃんたちは化粧濃いめだからともかく、ニコはタクシーの運ちゃんに顔を覚えられないように……国家権力相手の逃亡とか、ほふー、燃えるんだわ!」


「タクシーで移動するの? 忍者なのに?」


 なんだか窮屈だ。


「都内はドローン飛び回ってるからね。無力化してたら居場所を教えるようなもんだし、昨夜のことを考えると気付かないこともあり得る」


「よし」


「うん」


 そして二人は両側から手を取り、腕を組ませた。タカセさんもシマさんも背は僕より高いから、なんだかカッコ悪い形だ。侍らせてるというより、連行されてる感じになる。


「こっからニコはあんまり声を出さないで」


「子供だとバレるとマズいんだわ」


「……」


 僕は無言で頷いた。


 夜にやってきたときはわからなかったけど、シマさんの家は本当に大きな屋敷だった。そして強面の男たちが大勢いて、ジロジロと見てくる。玄関までが長く、そしてその間にすぐに異変を認めた一人の人が追ってきた。


「お嬢! 何事ですか、これは!」


 二十代だろうか、若くて、背の高い男だった。


「おー、お出かけなんだわ。コスプレデート」


「コスプレ……お嬢、オレがモノを知らないと思って適当言うのもいい加減にしてください。オヤジから女遊びは許容しろと言われてますが、どこの馬の骨を連れ込んで……」


「むふー! この陰茎が目に入らぬか!」


 じー。


 お説教をはじめようとした男に対して、シマさんは僕のズボンのチャックを下げて、ちんちんを引っ張り出した。あまりにも突然の出来事で反応できなかったし、横で見ていたタカセさんも怪訝な顔をしている。


「前の副将軍、水戸光圀公にあらせられるぞ!」


 ちんちんを握った。


「………………は?」


 男の反応は相当に遅れた。


 場の空気は凍っていたし、様子を見守っていた男たちも呆気にとられている。なにを言ってるのかわからないと言いたいところだったけど、水戸光圀公に謝らなきゃいけないことなのは僕にもわかる。ごめんなさい。


「お嬢、オレは」


「シマちゃんとヤりたいなら、これよりデカいチンポをもってくるんだわ。こんな落ち目の組でパパ目指すちっぽけな野心じゃ満足できん! はーはははっ! さらばだ明智くん!」


 言いたい放題して、タカセさんにアイコンタクトをすると二人は僕を抱えて走り出し、用意していた高いヒールの靴を素早く履いて外に飛び出した。打ち合わせしてたらしい。


 もちろん、僕のちんちんは丸出しだ。

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