第67話 オトワ・トワ
あらすじ シズクは手を尽くしている。
「クノ・イチ氏が都内に戻ってきたの、です」
それはオオクスからの連絡だった。
「蔵升島を経由しないで……?」
予想が外れている。
「……へへ、急いだ方が」
考えている時間はない。
「ええ! ええ! わかってますよ! シンくんがクノさんの探知範囲に入ったってことですね。了解です! 現地に忍ドロを回して貰えますか? こっちも移動してワープマーカーを……」
遠くまで逃げていなかった。
それがシズクにとっての誤算である。
クノ・イチ相手に戦って無事でいられる忍者などまずいない。集団でもほぼ壊滅は避けられない。追われる状況で、取り得る基本的な選択肢は可能な限り距離を取ることだ。
だれが考えてもそうなる。
「なにか問題が発生した……?」
シズクは考えを巡らせる。
霞ヶ関で様々に恩を売ってきた伝手を頼り、与党内のある派閥が甲賀衆という忍者集団を雇ってクノ大臣のスキャンダルを追っているという情報までは掴んだシズクだったが、それだけではまだ相手の行動を読めはしない。
「サーシャ、車を回して!」
ともかく現地に向かうしかない。
「ヤバそうやな。すぐ行く」
「急いでね!」
移動が必要な状況は想定内だ。島から都内へ呼んでおいたドライバーに連絡をつけ、シズクは次のアドレスをタップする。最悪を想定しなければならない。
シンを連れた忍者があっさり死ぬなら良し。
粘って戦いが激化すれば被害が増える。
クノ・イチが力を発揮すればするほど甚大に。
「ねぬい」
相手の第一声は寝惚けていた。
「夜分すみませんが! 緊急なので……」
シズクは叫ぶ。
「……すー」
寝息。
「起きてください! お願いですから!」
「うる、さい、んう」
「うるさくしてるんですよ! オトワさん! あなたの仕事なんです! クノさんを抑制できるのはあなただけなんですよ!?」
「……むかえ、に」
「ええ! 迎えに行きます! 東京駅には行きますから! そっちからすぐに飛んできてくださいね! 相手はクノさんですよ!」
「うにゅ」
寝惚けた声はそのまま切れた。
それでもおそらく納得はしてくれているはずだ。オトワ・トワ。毒物を用いた忍法のエキスパートで、クノ・イチに対しても一定の効果が認められる数少ない人物だ。ただし、自分に実験した毒物の副作用で活動可能時間が限りなく少ない。
ほぼ寝ている。
「あとは」
三次研から送られてきた位置情報。
それを元に周辺の警察に協力を求め、避難の準備を進めてもらわなければならない。シズクは方々に電話で指示をしながら、サーシャの車に拾われ、現地へと向かう。車内でも次々に関係各所からの通話がつづいた。
「オトワのおばちゃん来とるよ」
気がつけば東京駅。
「パジャマやけど」
アーシャの声に顔を上げると寝間着にイルカの抱き枕を抱え、ナイトキャップを被った、駅前にあるまじきだらしなさの女がうとうととしている。周囲の視線を集めていることなど、本人は気にもしていないだろうが。
「なんで目立つ忍者ばっかり……」
シズクは頭を抱えた。
「忍者と思われへんかったらええからな」
「悪目立ちは別の意味で問題でしょう!」
慎重さの欠片もない。
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