第62話 忍魂の乱れ
あらすじ タカセは一人暮らし。
帰宅。
アパートのユニットバスに直行する。
「ニコ、忍法を解除すると泥は水になるから」
「うん」
ずっとこちらを見つめていた少女は愛らしく頷いた。それを意識して、タカセは忍魂の乱れを強く感じる。移動しながらずっと感じていた。気持ちが定まらない。
空の浴槽にどぼんと水たまり。
「すごい、水道要らず?」
ニコの子供っぽい感想。
濡れたショートヘアが張り付く肌。
「飲まないよ。たぶんマズい水だと思う」
タカセは息苦しくなっている。
喉の奥に残る、感触。
試着室で飲み干した数発の精液。それは忍魂によって作られたもの。本物ではない。だからこそ、なんらかの効果が付与されていることは想像に難くない。クノ・イチの仕業ならば尚更だ。
「このままお風呂にしちゃおう」
忍魂を乱されている。
「……じゃ、タカセさんがお先に」
ニコの子供らしくない遠慮。
「一緒でいいでしょ」
そう言いながらタカセは制服を一瞬で脱ぐ。忍者ならば早着替えは基本的な技能だったが、服を邪魔に感じていたのは確かだった。
「でも、僕……」
「女同士じゃない」
有無を言わせず、ニコのジャージも脱がせる。
こちらはゆっくりと。
「ニコの裸は、最初から見ちゃってた。あたしももう見せてる。なにも問題ないでしょ? 生やされたそれも、知ってる」
「……うん」
恥ずかしそうにしながらも、抵抗はない。
なにも問題はない。
「妹って、欲しかったんだ」
タカセは自分がなにを口走っているのかよくわからなくなっていた。泥越しにしっかりと抱きしめていた少女の身体の重み、泥の中で蒸れた匂い、びしょ濡れのパンツ。あらゆる思考はキャンセルされ、生々しい肉体が割り込んでくる。
「あたし……お姉ちゃんって呼んで?」
欲望が言葉になっていた。
「……え? なんで」
理解できない様子のニコは首を傾げる。
「お姉ちゃん」
その無防備な首筋に噛みつきたくなる。
「おねえちゃん……?」
「ざんねん! おおかみでした! ガブガブぅ」
口で言いながら、捕食する。
「なに、なになになに?」
ニコは困っていた。
「ガブガブガブガブぅぅうう」
タカセも自分を見失っていた。
「おおかみでーす」
歯を立てない程度にその柔らかな首の肉の弾力を味わいながら、脱がせた脇腹をくすぐり、水が流れ出る浴槽の中で裸を絡ませる。訳のわからない衝動だった。自分でも制御できない。
「くすぐったい、くすぐっ、あはははっ」
「がぶがぶがぶがぶがぶ」
ただ、気持ちよかった。
くすぐられて笑うニコの顔を見ているだけで幸福感があり、その身体を抱きしめていることに満足感があった。クノ・イチがどうして遊んだのかわかった気がしていた。
「ははっ、はひっ、ひひひっ、くる、くるしいよ! くるしいよおねえちゃんっ……」
「ぐるるる」
本当に苦しそうな声でハッと我に返る。
「はっ、はっはっはっ」
けれど狼の真似は止まらない。
「え? えー? なんで?」
ニコは困っている。
くすぐらず、タカセは顔を舐めていた。
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