第49話 ちゃんと自分を探して

あらすじ 『なにか』は目覚め、即、眠らされた。


 聞き間違いかもしれない。


「シンくんに、生物兵器を隠した?」


 シズクは確認する。


「それになんのメリットが……」


「説明する前に、前提として、自分が受け取った電波をすべて言語化できるとはいえないの、です……これは、あくまで独自の解釈になります」


 約束通りオオクスは質問に答えてくれる。


「ええ」


 独自だろうがなんだろうが、ぶっ飛んだ宇宙人の人格をインストール済みの危険人物の言葉であることはシズクも了解している。その上で、死にもしないのだから有効に使うしかないというのが、関わる人間の共通見解だった。


「地球は彼らにとって遠すぎる星なの、です。多様な生物、そこに住まう知的生命体の文明の急速な展開、価値は高いけれども、行こうと思って到着する頃には滅んでいてもおかしくない」


「……数千万光年の彼方」


 実感の伴わない数字そのもの。


「人類の歴史を易々と飲み込む距離なの、です。とは言え、捨てるには惜しい。それが自分にやってきた人格の感覚になります……へへ。人間好きなんですよ? こう見えて」


 オオクスは上機嫌なようだった。


「……はは」


 シズクは愛想笑いするしかなかった。


 実験対象として好きならまだマシな方で、食べ物として好きとか、あるいはインテリアとして好きとかそういう話の可能性さえある。


「彼らは、ファーストコンタクトまで地球を生かすことを目的にしている、と自分は考えています。ただ、それも一枚岩ではないの、です」


 オオクスは言う。


「滅ぼしたがっている宇宙人もいる、と?」


 そちらの方が理解しやすくはあった。


「いいえ、どちらかと言えば、アプローチの違いです。争いを減らす自分のような考えより、もっと手っ取り早く覇権を取らせて不確定要素を取り除くことを目的とするようなもの、です」


「……そのための生物兵器?」


 シズクは緊張する。


 より暴力的な手段を選ぶかもしれない相手。


「推測の上の推測ですが、自分のように人格ではなく、もっと具体的な、設計図、のようなものを電波として受け取った人間がいる、と考えるべきだと、魂が言っています……へへ」


「魂が、別人格なんですか?」


 頭が痛くなる。


「オオクス・トキコ本人と、今の自分が同一人物という気はしません。むしろ魂の方が本来の人格かもしれないの、です……乗っ取られた本体が危機を察知している……ような?」


 曖昧なことを言ってくる。


「首を傾げられても困りますが……」


 乗っ取った宇宙人です、と自己紹介されてもそれをどう受け止めていいのかわからない。ちゃんと自分を探してもらいたかった。


「感じたはずです。目覚めた『モノ』は明確な殺意を飛ばしていました。そうプログラムされている、と考えるべきなの、です」


「あれは」


 カンダ・シンの声ではないもの。


「魂を震わせる声、でしょうか。偶然か必然かわかりませんが、光速の制約を超えて情報を飛ばす技術は忍魂と通底しているところがあるの、です。生物兵器は、このまま目覚めれば殺意のままに被害を広げるでしょう。その意味で、クノ・イチ氏と行動を共にさせることが安全策と考えます。忍魂を使いこなせれば、あるいは」


「生物兵器も制御できる?」


「かもしれません」


「……」


 都合が良すぎる。


 シズクがオオクスの話を疑ってかかっているのもあるが、それではまるで二人の出会いが運命のようである。なにより、下手をすれば最強の忍者にさらなる武器を与えかねない。


「それが望ましくないというのであれば、このまま冷凍睡眠させる手もあるの、です。あの子の人生を……台無しにしていいのであれば」


「……」


 勝手に決めてしまえるものではなかった。

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