第48話 気分はいかが
あらすじ シズクは仕事に徹している。
「うっふ……へへ、ふぃ……」
恍惚の表情のまま、白衣を着直したオオクスは麻酔で昏倒している全裸の少年と記念撮影をはじめる。あくまで女同士なので被害の程度は肉体的に浅いと見るか、精神的に深いと見るか、シズクとしては判断に迷うところだった。
本人が嫌がる画像なのは間違いない。
「結論から言うと生物なの、です……へへ」
そして唐突に答えが飛んできた。
「! それは、隠されている『なにか』が?」
ハッとして、質問をする。
「実験してみましょう」
そう言うと、忍ドロを操作して、眠ったままのシンの身体をミキサーの上へ浮かせていく。シズクにはできない難易度の高い重力制御操作だが、オオクスはさらりとこなす。
「ああ、蓋を開けると臭いが凄いの、です。覚悟してください……へへ。男ばかり五十もの死体をドロドロにした液なの、です」
「!?」
シズクはガスマスクを用意してなかったことを後悔したが、躊躇なく開かれたミキサーの蓋からあふれ出した臭気は両手で口と鼻を塞いだ程度ではどうにもならず、吐く。
「医療的な見地で、カンダ・シンの体内には異常がなかったの、です。CTやレントゲン、血液検査、ひき逃げを許した母親も、息子の身体が本当に安全かどうかは確かめていました」
「……むぉっ」
平然と喋りつづけるオオクスの背後でシズクは這いつくばっていた。この臭いに平然と耐えるだけで異常なのは明らかだった。
「このことはそちらも承知のはず、です」
「ううぅ」
頷いたが、それどころではなかった。
「では、ドボン!」
ごぷっ。
不気味なガスが泡立つ液へ、シンが落とされ、そのまま蓋が閉じられる。臭いが空調で消されていくまでこの施設の空調でもそれなりに長い時間がかかったようにシズクには感じられた。その間もミキサーは不気味な音を立て、中をかき混ぜている。だが、濃い血の色がその濁った液に現れることはなかった。
「酸素がそろそろなくなるはず、です」
スマホの画面を見ながら、オオクスは言う。
ずっ。
ずずずずっ。
「!?」
それはストローでシェイクを吸い込むような音だった。見る間にミキサー内の液体が目減りし、透明なガラスにべたんと手が打ち付けられる。眠ったままのシンの顔が押しつけられた。
「目覚めました」
オオクスは前髪を持ち上げてじっと見ている。
「こんにちは、気分はいかがですか?」
「……」
だれになにを話しかけているのか。
ご゛ろ゛ず゛!
ご゛ろ゛じ゛で゛や゛る゛!
「くううう」
頭の中に響く重低音にシズクは呻いた。
「やはり、自分と近い『モノ』なの、です……受け取った電波に告げられていた未来が、今。いつかは巡り会うと思っていました」
独り言のようにつぶやきながらミキサー内部の液がすべて減っていくタイミングを見計らうようにしてスマホを操作し、それと同時に少年の身体も消える。
「残念です……へへ。もうしばらく寝ていてください。ここにいる人間では、止められない」
「なに、を?」
「生物兵器なの、です。あれは」
目を隠して、オオクスは微笑んだ。
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