第50話 蹴っ飛ばす
あらすじ 宇宙人たちは地球で暗躍していた。
胸の重みで目を覚ます。
「……」
女のままだった。
裸にされてる。
せめて男に戻っていたのならば麻酔で眠らされたことも許せそうだったが、全裸で堅い床に転がされて、ガラス張りの部屋に閉じ込められていることを理解したときには怒りしかない。
「ってぇ……ちくしょう」
さらに全身が痛い。
気分も悪い。
熱もある気がする。
「おはようございます」
内部に向けられたスピーカーから声。
四つん這いから起き上がるのに汗だくになっているとガラスの向こう側にシズクさんが立っていた。スマホを構えて撮影している様子だ。
「とるな! 言うことあんだろ!」
僕は怒鳴った。
音は内側に反響していたが、話しかけてきたんだからこちらの声も外に届いているはずだろう。怒りで、なんとか立ち上がれた。フラフラするが、弱気を見せたくない。
キレてると思う。許せない。
「クノさんのご機嫌を取るには必要な映像なので、申し訳ありません。強攻策を取ったことについては、必要な措置でした」
シズクさんは気のない声で答えた。
「……ひつような、そち」
舌が回らない。
頭に血が上りすぎたのか、吐き気まで来て、やっと立ち上がったのにまた膝をついてしまう。視線の先にぶら下がる乳房に苛つく。自分の裸のはずなのに、なんだか下品に見えるのだ。
「正直に言います。実験の結果はあまりよくありません。その内容についても伝えないということで大臣と意見が一致しました」
「?」
なにを言ってるんだ。
「これからのことについてですが、シンくんが選べるのはふたつにひとつです」
シズクさんはこちらの反応を見ない。
「ひとつは隠されている『モノ』を安全に取り除く技術ができあがるまで冷凍睡眠してもらう。もうひとつはクノさんと共に『モノ』を隠した人物を追ってもらう。伝達事項は以上です」
「あの……」
話がまるで見えない。
僕が眠らされている間になにがあったのか。
「質問は受け付けません」
シズクさんはとりつく島も与えてくれない。
「……そんなの」
訳がわからなすぎて選べない。
「シンくん。大人には説明できないことがあるのです。察してくれとは言いません。憎まれ役は最初から買うつもりでした。あとは、自分で考えて結論を出すしかありません」
シズクさんは静かに僕を見つめていた。
ふざけている雰囲気はない。
「考えようにもなにもわからない!」
それでも、いきなりは困る。
「そういうものです。ヒントは自分で見つけるしかありません。忍者は、そういう仕事です」
「……」
自分で調べろってことか?
忍者になって、自分で知るか。
さもなくば冷凍睡眠?
冷凍睡眠ってなんだよ。
「わかって、シズクさんの敵になるかも」
苛立ちと怒りにまかせて言った。
「僕の力では足りなくても、イチさんをけしかけたりはできるかもしれない。そういう可能性を込みで、一緒に忍者をやれって言ってる?」
「質問にはお答えできません」
「そう……」
僕は首を振った。
「……なら、忍者になるよ。全部知って、それで許せないヤツの……すねとか蹴っ飛ばす。泣いても蹴っ飛ばす。謝るまで蹴っ飛ばすから!」
自分に人殺しができるイメージがわかない。
「……了解しました」
シズクさんは神妙に頷いた。
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