第46話 スムージー
あらすじ よくわからない話で子供を煙に巻く大人。
オオクス博士はスマホの画面で指を動かす。
「拒否しても構いません……へへ」
そしてまた笑った。
「これは自分の気持ちで、キミがそれをどう受け止めるかを強制することはできないの、です。ただ、拒否した先には過去の繰り返ししかない、でしょう」
「過去の……?」
「また下僕が一人増える」
シズクさんがつぶやいた。
双子。あの二人が不幸そうと僕は思わなかったが、ああなりたいと思った訳でもない。閉ざされた島で、くのいちの気持ちひとつで生きる。それが苦痛かどうかは判断できない。
「クノ・イチ氏に手加減という言葉はありません。男のキミに惚れたのだとすれば、おそらく女になってしまったキミへの興味はそれより劣ります。ブレーキはかからない、でしょう」
オオクス博士は言う。
「勝手に女にしといて?」
あまりにも理不尽な話じゃないだろうか。
「クノさんが後先考えて行動してるとでも?」
そしてシズクさんは辛辣だ。
「だ、けど、ミキサーは怖いから……」
「もっと怖くなります」
そう言った途端に、巨大なミキサーにどさどさと人が落ちてくる。屈強な男たち、裸で、無反応で、青白い。死んで、凍っているように見える。そして大きな斬り傷をそれぞれの身体に残していた。殺されていた。
ミキサーが起動する。
「クノ・イチ氏が殺した敵の遺体で原型をとどめているものは……主に三次研が回収し、つくばの研究施設で洗浄され、冷凍保存されます。それをここに忍法で飛ばしています」
オオクス博士の言葉は死体を斬って砕いていく音でかき消されていた。よく聞こえない。骨も肉もその透明な容器にぶつかり、そしてみるみるうちに液状に練られていく。
「スムージー」
ただシズクさんの不謹慎な発言は聞こえた。
「殺された敵の魂を取り込むことで、忍魂を一気に大きく育てることができるの、です……」
「よく聞こえない!」
僕は首を振った。
がりがりぐちゃぐちゃと生々しく肉色の物体がかき混ぜられる音は、その光景から目を背けても恐怖を抱くには十分だった。そこに入れられそうとか考えたくもない。
「……聞こえないけど!」
僕は逃げようとする。
これ以上、こんなことには関われない。
どう考えたって、マシなのは。
「逃がしませんが?」
シズクさんが僕を捕まえていた。
「拒否しても構わないって言った!」
話が違う!
「三次研は直接の被害者にはなりませんから。私たちはそうじゃないので、シンくんの意思を最大限尊重したとしても、オオクス博士に実験してもらいます。理論的には、これでいいので」
「ふざけんな!」
そういう話でもないだろ。
「抵抗するなら麻酔です」
「!?」
言われたときにはもう打たれていた。
全身の力が抜けていく。
「あまり乱暴なのはよくないの、です……」
駆け寄ってきた声。
「……恨まれたら、アナタにもよいことは」
「凡人がクノさんの先手を打つためには、常識も倫理も捨てて、効率だけを追い求めなくちゃ」
勝手なこと言ってる。
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