第45話 プリミティブな欲望に忠実なだけの人
あらすじ くのいちはトキコの恩人?
なんと言われたってミキサーは嫌だ。
怖い。
「いや、そもそも助けるもなにも」
僕は混乱しながら言葉を吐き出す。
「イチさんの存在の方が危険なんじゃないの? だから、僕みたいな子供でも、恋人として彼女が認めるなら、利用価値がある、ってだけで」
口にすると自分の状況も理解できて、頭の中が少し整理される感覚がある。僕はあくまで、くのいちの規格に偶然合うかも知れない非純正コントローラーのような存在なのだ。
正規ではないが暴走するくのいちを動かせる。
動かせる限りにおいては利用価値がある。
助けるも助けないもない。
自分自身をどう助けるか、という話だった。
「その通り、です……三次研の見解もそうです。今後、起こりうる大きな争いの関係者であってもなくても、放置できない存在と見なされています。ただ、自分は少し考えが違います」
オオクス博士は首輪を触る。
「……どう違うの?」
あまり聞きたくなかったが無視はできない。
同じものが僕の首にもはめられている。さっきから指を突っ込んだりしているが、外せる感じがまるでない。はめたのに継ぎ目がないのだ。そして無理に外そうとするのも怖い。
「クノ・イチ氏の無軌道を許し、時には利用しながら、いつでも責任を被せて処分しようとしている勢力がある……泳がせているの、です」
「……?」
よくわからなかった。
「そう仕向けられている、面はあるでしょうね」
シズクさんが口を開く。
理解できたらしい。
「どういうこと?」
「クノさんはプリミティブな欲望に忠実なだけの人だということです。世界をどうしたいとか、自分がどうなりたいとか、なにか深い考えがある訳ではない。良くも悪くも目の前のことだけしか興味がない」
妙に実感のこもった言葉だった。
「……褒めてないように聞こえるけど」
悪口っぽい。
「褒めてませんから」
強く頷かれた。
「そうなんだ」
プリミティブ?
「それでも、並外れた力だけは持ってしまっているの、です……自分がそうであったように、力は本人の意思とは無関係に人を集め、動かしてしまいます。そしてクノ・イチ氏自身をも破滅へと向かわせてしまう、でしょう」
「だから、僕にどうしろって……」
破滅とか言われてもよくわからない。
「恋人として、恋人のために行動して欲しいの、です……だれも心配などしない最強の忍者を、キミだけは常に想って、行動してください」
なんだか重たいものを押しつけられてる。
「そんなの」
「自分ではダメなの、です。クノ・イチ氏の性的好奇心を喚起しない自分では……想うだけで、共に行動することはできないの、です」
「……」
おそらくその通りなのは僕にもわかる。
くのいちは性的な興味だけで僕を生かし、恋人ごっこを演じさせようとしている。それが楽しいのかよくわからないが、そこに向けてシズクさんをはじめ、周りが協力している。並外れた力が人を集めて動かしている。
よくないことだ。
たぶん、くのいちにとってよくない。
それをなんとかしたいと、この人は考えてる。それが僕になら出来ると考えている。僕が恋人に本気でなることで変わると思っているのだ。
だけど。
「……でも」
ミキサーじゃなきゃダメなの?
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