第28話 耐え忍ぶ
あらすじ くのいちの育ての親と対面。
「魔法……の魔物も霊的なものですか?」
僕は質問する。
非科学的でも現実としておかしな現象はいくつも見てきた。もっと素直に受け入れるべきなのだろう。子供らしく、あまり好きな言葉じゃないけど、事実、僕は子供なのだから。
「ノー。魔物は魔物として実在する」
返ってきたクノ大臣の言葉は受け入れ難い。
「この世界はどういう……」
「一気に頭に入れようとすると混乱するわ。世界はカンダくんが想像するより複雑に広いのよ。今日のところは、人間には魂があるということを納得してもらいたいの」
「……別にあってもいいとは思いますけど」
考え方を否定はしない。
それを信じるかどうかは別問題だけど。
「あるのよ」
僕の態度は見透かされているらしい。
「見せてもらえるものではないんですよね?」
ならば確認が必要だ。
「今の私は、忍魂とシンクロした姿よ。私の肉体そのものは東京にいて、仕事さえしてる。夕方から定例の記者会見もあるから、一緒に見ることもできる。ごめんなさい……蔵升島はインターネットと隔絶しているから見られないけれど」
「……」
僕は周囲を見た。
「大臣、シンくんは話の概要を掴みかねてるんだと思います。話の順序も大事ですが、もっとわかりやすさを重視すべきなのではないかと」
「そう?」
シズクさんの言葉に、クノ大臣は考え込む。
「簡単な話や。言うたら、イチとの、合意のない性行為を耐え忍ぶと、魂が変質して忍魂になってまう……って話やねん」
サーシャさんが飲みながら言った。
「……魂が変質?」
僕のも変質してるって話?
あるのかないのかもわからないものが変質していると言われても困るが、気分のいい話でもないことは確かだった。もちろん、肉体的にも精神的にも以前のままではなくなってるのはわかるが。
「蔵升島の忍者、蔵升流とも呼ばれる流儀は、魂の変質しやすい子供時代に苦難を与えて、忍魂を獲得させるのが特色でしたの。お姉様もわたくしたちも、その手法で忍者になりましたわ」
アーシャさんは刺身を箸で掴み、軽く醤油をつけて僕の口元に運びながら言った。食欲も吹き飛ぶような話だったが、条件反射で口を開けてしまう。はまち?
あ、ぷりぷりで美味しい。
「つまり、シン様は、もう忍者なのですわ」
「……」
もぐもぐ。
どんな顔してそれを受け入れればいいんだ。
僕の魂は変質してる、らしい。
「だから、もう選択の余地なく、カンダくんには忍者をやってもらうしかない。娘の不始末を押しつけるようで心苦しいけれど、端的に言うと、仲間として歓迎するのはそういうことなのよ」
クノ大臣は申し訳ないとは思ってない堂々とした表情でそう告げた。よくわからないが、政治家っぽいと思う。勝手に押しつけてくる感じが。
「育ての親って言ってましたけど」
僕は言う。
「娘に襲われたってことですよね。大臣」
「……」
「……」
沈黙は長かった。
僕はアーシャさんが次々に運んでくれるエビやヒラメやタイの刺身を出されるままに食べながら、次の言葉を待った。どういう経緯でくのいちを引き取ったのか知らないが、大人として非常に恥ずかしい話のはずだと思う。
沈黙は、長かった。
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