第29話 忍法ウィッシュ
あらすじ クノ・ミドリは過去を語りたくない。
忍法シンクロは切断された。
「おぬし、ミドリは泣いておるぞ?」
クノ大臣のソウル、白髪の女の子は言った。
「泣かれても」
犯された挙げ句に魂が変質してるから忍者やれとか言われて、僕が泣きたくなっていないとでも思うのだろうか。泣けるなら泣きたい。
現実感がなくて感情が動かないだけだ。
「疑問は当然じゃから、わしの口から教えてやる。だから、本人にはもう聞いてやるな? ここで忍者やれておるアバズレ共と違って、ミドリのショックは未だ癒えておらん……」
「アバズレて! オババ!」
「お師匠様、手厳しいわ」
双子は抗議した。
「まず、あなたは大臣とは別人格なんですか?」
それを無視して僕は質問する。
「定義するなら人格とは脳にある思考パターンじゃ。正確な表現かはわからぬが、生きている人間のものということじゃな」
「ソウルは、生きてない?」
さっき背中を慰めるように叩かれた。
とても幽霊とは思えない。
「わしは、ヒスイ。そこの床の間に飾られとる刀に込められた忍魂じゃ。どうしてそうなったかと言えば、ミドリがイチとの性行為によって得た力を嫌い……自決しようとしたんじゃな」
刀身むき出しのインテリア。
忍者ってそういうものなのかとあまり気にしていなかったが、この女の子は刀に取り憑いているということになるのだろうか。霊的エネルギー、地縛霊みたいなもの?
「じけつって?」
「自分を殺そうとしたんです。切腹ですね」
シズクさんが溜息交じりに言う。
「……え」
ショックだったらそういう反応になるの?
「オババは特殊やねん」
「気持ちよかったことを認められないぐらいに潔癖なのですわ。だから未だに独身で……」
双子の反応も特殊だとは思うけど。
「ミドリも若かった。勢いでやったことじゃ。死ぬほどの深い傷でもなかったしのう。結果、わしが分離した忍魂になったのは偶然としか言えぬ。他に試した者もおらんからの……」
「それは、えーと」
そんな話をされても僕は反応に困る。
「ヒスイさんはここで忍者の師匠なんですよね? 大臣がソウルを分離? したとしても、意思というか勝手に喋れる人格みたいなものはある。それはどういう……」
「忍魂は周囲の魂を引き寄せるのじゃ」
ヒスイは言った。
「引き寄せる?」
なんか怖い話めいてきた。
「イチが殺した忍者たちの魂がわしに集まり、そこに宿った蔵升流を存続させる願いを具現化させた。いわば忍法ウィッシュじゃな」
「人格というより、願いってこと?」
「その理解でよい」
ヒスイさんは頷いた。
「ミドリが元々持っていたいつか政治家になり日本をよくしたいと言う願いと、この島に残った怨念とも言うべき忍者たちの願いと、そしてこのヒスイという刀に込められた願いとが混ざり合って生まれたのがわしじゃ。こう言うと、イチの親であり、子でもあるやもしれんな」
はっはっは、と軽く笑ったが重たかった。
目の前のものが願いの塊。
それが魂?
それが、僕に忍者になれと言っている。
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