第24話 それは別問題
あらすじ くのいちは本能に抗わない。
全身に力が入らない。
「いい湯だ……」
くのいちは露天風呂の岩に背中を預け、その浮かんだ乳房の上に僕の頭をのせてリラックスしている。満足そうで、活力に満ちていた。
「……見てないで、入ってもいいぞ?」
「へ?」
「バレたか、イチは油断せえへんな」
「イチ姉様……ドスケベでしたわ」
露天風呂の周りにあった木の上からもう全裸の女たちが二人飛び降りてきて、僕は慌てて起き上がろうとするがくのいちがそうさせなかった。
「アーシャとサーシャだ」
そして言う。
「二人は、わたしがこの島を壊滅させたときには外に出されていた忍者だ。見ての通り血縁はないが、姉妹のようなものだ。性的にも」
最後の一言は余計だと思う。
「ドライバーの人も忍者だったんだ」
そして双子。
いや、体型は結構違う。ドライバーの人はスレンダーだけど、もう一人の人は割とふっくらとしてる。けど、顔のパーツはうり二つだ。似てないはずなのに雰囲気が妙に似ている。
「自己紹介もしてなかったのか?」
くのいちは不思議そうに言う、
「そらな? イチが連れてきた言うても男やもん。敵かもしれへん。ま、見る限り敵になりようがないフニャチンやったけど」
「サーシャ、いつのまに男性経験を? わたくしが見る限り、この子、なかなかの……」
「アーシャ! アンタは黙っとき! いつケダモノになるかわからんのが男なんやから!」
「……」
人のちんちんをジロジロ見つめやがって。
遠慮しろよ。
もう隠す気力もないけれど。
「敵も味方もないぞ? わたしの女であるってことは、シンの女でもあるってことだ。どんな気持ちであれ、求められたら抱かれろ」
「イチ……ウチはそんなん」
「お姉様がお望みならわたくしは……」
くのいちは二人のやりとりで不機嫌になったみたいだった。明らかに空気がピリッとする。そして双子は沈黙した。すっかり太陽が昇ってもう温泉と差がわからないような気温なのに、寒気すら覚える。支配しているのだ。
洗脳まではしなくとも十分なぐらいに。
「なに言ってんの?」
発言内容にはまったく納得できないけど。
「シン、これは大事なことだ」
くのいちは仰向けに浮かんでいた僕を抱きかかえ、顔を向き合わせて言う。その赤い瞳は襲いかかってきたときより真剣な光を湛えていた。
「わたしが護衛している人間を奪おうと思う敵が考えることは、わたしを倒すことじゃない。それは不可能だからだ。ならばどうするか、いかにわたしを避けて目的を達成するかを考える。必然、忍法ハニートラップは使用される」
「……だから、忍法って」
どういう定義なの。
「ハニートラップへの対策は究極的にひとつしかない。慣れることだ。わたしも含めて人間は緊張感を永遠に維持することはできない。仕方がない。油断はある。誘惑に負ける。それを込みでリカバリーする経験を積むことが対策だ」
くのいちは真面目に説いてるみたいだった。
「そんなたたみかけて言われても」
僕はどうしたってまだ子供だ。
理解を脳が拒んでる。
ハニートラップって要するに色仕掛けのことだろう。そんなものに引っかかりはしないが、引っかかることを前提に訓練しろと言われても困るのだ。そもそもセックスなんてしたくない。
疲れる。
本当に疲れるのだ。
「わたしがシンを強引に抱くのは、そのためだ」
つけたして、くのいちは僕を抱きしめた。
「それは別問題じゃない!?」
自己正当化しようとしているのはわかった。
「意外と冷静やな」
「いい子ですね」
双子はなんだか頷いていた。
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