第23話 最低の愛の言葉

あらすじ 少年は本能に抗う。


 見ないようにしていた。


「泡、足すから」


 呼吸を整えて、ボディソープを手の中で泡立てる。はじめてのときに触らなかった訳じゃない。ただ、自分からとなるとまた違う。されるんじゃなくて、してしまうのだという罪悪感があった。


「ふむ」


 しゃがんだ僕の尻をくのいちが撫でた。


「ちょ、な」


 遠慮がない。


「こちらも屈まないと触りにくいだろう?」


 そしてわざとらしい。


「洗いにくい、だ」


 まっすぐ見たくなかった。


「ほら、もう十分だろう?」


 立て膝をついたくのいちが胸の下で両腕を組んでその二つの乳房を持ち上げてみせる。改めてバケモノめいた大きさだった。たぶん魔物が入ってる。そう思おう。夢見たなにかではない。それとは違う。


「……じゃ、洗うよ」


 どこから手を伸ばせばいいのか。


「いいぞ」


「ちょっとは隠してください」


 さらにぐっと、淡いピンクに色づいた先端を寄せるようにして向けられて僕の緊張はさらに高まる。その具体的な硬さや感触、舌先に味が蘇っている。あまみ、いや、なにかこう安心感のような味だ。


 心地よささえあった。


「ふ」


 くのいちが吐息で笑った。


「このっ」


 もうともかく洗うしかない。


 僕は乱暴に手を伸ばして乳房の根元、鎖骨の下から泡を伸ばしてその突き出した丸みをなぞっていく。指先を心地よい弾力が受け止めた。むっちりとした揉み応え。たぶん凄いんだと思う。


 恋人としてなら、僕のもの。


 確かめるな。


「シン……もっと乱暴でもいいぞ?」


「うるさい……ですよ」


 くのいちの顔を見られない。


 ともかく洗う。重量感のある下側へと手を伸ばし、そして谷間を開いて肌を撫でる。ボディソープをこすりつける。汚れてないような気がする。いや、汚れてるのは間違いない。


 僕を汚したおっぱいだ。


 僕が汚したおっぱいだ。


「……も、いいですか?」


 一通り泡を擦った。肌を擦った。


「さきっぽ」


 くのいちは言う。


「そこは、自分でやりましょうよ」


 言われると思った。


「どうすればいいのか、わからない……」


「しゃぶればいいと思うぞ」


 当然の様に言われる。


「趣旨が変わってる!」


 パッと目があって、くのいちが舌なめずりをしながら僕を見ていて、全身に恐怖と言う名の危険信号が走ったと思った次の瞬間には泡の中に顔面が埋もれていた。体重はプロフィールに書いてなかったけど、僕が簡単に動かせるようなものじゃないのは明らかだ。


「くのいちさん!」


 僕は叫ぶ。


 のしかかられ、腕で押し上げようとしてもびくともしない。


「すまない。だが、もう限界だ」


 泡まみれの上半身が僕の全身を撫でた。


 絡みつく。


「限界って……!」


「愛してるぞ! シン!」


 間違いなく最低の愛の言葉だった。

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