第22話 僕の仕事

あらすじ くのいちのウェストは77。


 腹筋のラインをなぞり、脇腹へ手を伸ばす。


「おなかの次に……洗うよ」


 逃げ道がないことはわかっている。


 僕みたいな子供を性的対象と見ているのがくのいちで、そのおかしさは明らかだけど、だれも止めることができないと考えられている。少なくともこれまでの担当たちはそう考えていた。


 ならば、求められることが過剰になったときの被害を抑えるために適度な満足感を与えるべし、ということだ。自動車が事故った時に潰れて中の人間への衝撃を抑える、みたいな。


 自衛手段だ。


「胸も」


 僕は見上げる。


「そう、か。ならばいい。むろん」


 自らの手で、胸の谷間を開いて、くのいちは僕の顔を見つめていた。少し嬉しそうに。僕の顔は赤面していると思う。恥ずかしい。押し倒された家の廊下でも、こっちが恥ずかしがってるのが嬉しいみたいな感じだった。


 余計なことを考えるな。


「腹筋……僕も鍛えたら割れるかな」


 僕は目の前の身体を洗うことに集中する。


 肌は見た目よりずっとすべすべだ。ただ、近くで見ると所々に白く刺し傷や抉れたような跡もある。ヘンタイなのは間違いないが、過酷な生き方はしてきたはずだ。


「筋肉が大きくなるかは個人差があるからな。わたしは、シンのように華奢な身体は羨ましい。忍者になるなら、小柄なことは優位だぞ?」


 くのいちが気を遣ったようなことを言った。


「僕になれるのかな」


 変な感じだ。


「なれたとして、この時代に忍者がなにをするものなのかよくわからないけど……国がバックならスパイなの? 海外に行ったり?」


「シン、わたしに重要機密を扱わせるほど政府がとち狂ってると思うか? そこまでの信頼関係はない。蔵升島も隔離施設の扱いだ」


「自分で言うんだ」


 僕は呆気にとられる。


 自覚があって、その奔放な振る舞い?


「むろん、わたしは阿呆ではない」


 くのいちは皮肉をスルーした。


「仕事とすれば、国からの委託は主にわたしのような特殊な技能を持ったスパイに対するカウンター。暗殺だな。これはシンがやることはない仕事だろう。ひとまずは自分を守ることだ」


「……うん」


 腕を回して胸の下から腹、そして腰骨を洗う。こんな人だが、なんらかの形でたぶん国を、そこに住む僕たちも含めて守っていた人でもあるのだ。なにか機嫌を損ねたりしたら、困る人もいるはずだ。


 そう、これは僕の仕事だ。


「よし、十分だ。おっぱいを触ってくれ」


 くのいちの呼吸がもう荒い。


「触るんじゃなくて洗うんだよ?」


 僕は訂正した。


「同じことだろう?」


「違うよ? わかってて言ってるでしょ?」


「シンの身体はそう言ってないようだが?」


 にやけながら、僕の下半身を見ている。


「……生理現象だよ」


 緊張していた。


 指摘されなくても、わかってる。

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