第25話 唯一の弱点

あらすじ セックスは訓練を兼ねている。


 くのいちは寝ていた。


「そのために、抱くのだ……んん、ん」


 湯船の中で僕を捕まえたまま、ふと気づくと目を瞑って落ちていた。瞬間、さっきまで喋っていたと思ったらいきなりである。


 あまりにも唐突だった。


「だ、大丈夫……なの? これ?」


 僕も思わず心配してしまう。


「風呂に入るのがスイッチやねん」


 サーシャさんは落ち着いたものだった。


「お姉様も自覚はありますわ」


 アーシャさんは言いながらくのいちの腕をどかして僕を自由にしてくれる。がっちりとしたホールドは寝ていても継続していたから、この人も相当の力持ちである。


「むしろ今日は好きな男の子を目の前にして頑張って起きていたぐらいの方ですのよ? 十日ぐらいは連続して活動して、一度寝ると一時間はなにをしても起きませんから」


「それが唯一の弱点やな。実際、寝落ちで溺れ死にしかけたんがこれまでにあった最大のピンチやった」


 言い合いながら双子はそのままくのいちを抱え上げて湯船から出す。どうやらそれが目的でやってきたということのようだ。そのまま殺してしまうほど必要とされてない訳じゃない。


「あと弱点と言えば、お姉様の」


「せやね。よっと、この辺りを……」


「見せなくていいよ!」


 そのまま二人で大きく脚を広げてなにやら僕に教えてくれそうだったが止めた。止めるしかなかった。親切かもしれないが、寝ている相手の身体を使って見せられても困る。


 見てられない。


「知っといて損はないで? シン坊、イチの体力に合わせられる人間なんておらんのやから、ヤられてたら寿命がいくらあっても足らん」


 サーシャさんの方は急に優しげだったが。


 シン坊?


「僕が、くのいちさんと、そういうことするのが嫌なんじゃないの? その、女ってことは……つまり、恋人だったんでしょ?」


「そないな時期もあった」


 遠い目だった。


「お姉様は飽きっぽいですから……」


 アーシャさんは悲しげに頷く。


「シン坊が特別なんは、ウチらも納得してる。イチが普通のセックスしかせえへん時点で、大切にしてるのはわかるからな。気持ちがなければ、一回でもう虜にしてるはずや」


「……なんで僕なんかを」


 とんでもないことをさらっと言われてる。


「可愛いからやろ」


「可愛いですもの」


 双子は声をそろえて言った。


「……」


 時間の問題だった。


 男の僕がいつまでもそんな評価でいられる訳がないことはわかっている。幼い頃からそう言われては来て、場合によってはそのことで贔屓もされ、人から嫌われる理由にすらなっていたが、要するに今だけということだ。


 わかりきってる。


「シン坊、浴衣や」


「あ、どうも」


 破り捨てられた制服の代わりは二人が持ってきてくれていた。眠ったままのくのいちにも着せ、二人がかりで抱えあげる。軽々という具合なのか、なんらかの忍法なのかはわからない。


 少なくとも僕と同じバントはつけてない。


「では、シン様。ご案内しますわ」


「……様、はやめて」


「いえいえ、これ以外にはありませんの。お姉様の恋人ですもの。わたくし、お姉様の下僕げぼくですからシン様はシン様ですわ」


 アーシャさんはいっちゃってる感じだ。


「ウチは下僕ちゃうで?」


「……うん」


 聞きたいことは色々とあったが、この二人に聞いていいのか判断できず、僕は言われるままに後を追って、島の中央にある城に向かう。


「やっと酒が飲めるー」


「わたくし、給仕担当ですのよ? シン様、好き嫌いはありまして? アレルギー等もあるなら教えておいてくださいまし? 今日のメインは舟盛りですけれど、追加はいくらでも……」


 浴衣姿でぞろぞろと歩く。


「……忍者の島なんだよね?」


「そやで?」


「ですわ?」


 なんか温泉旅館に来たみたいで緊張感がない。

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