第14話 あなたの使命

あらすじ くのいちとの恋愛は勝負だった。


 飼うか飼われるか、僕の未来は。


「待って、待って待って」


 受け入れられない。


「国でしょ? 僕は十三歳だよ? 大人が子供に手を出したら犯罪でしょ? 認めるの?」


 恋人になれだなんて、大人が言って良いことじゃない。中学生にだってわかる。小学生だってわかってる。僕に出来ることはそれだけかもしれないが、まともな解決策じゃない。


「警察にクノさんが捕まえられると?」


 シズクさんは答える。


「ドローンとか七つ道具とか、あるんだから、忍者の技を使える人がいるでしょ? そういう人がこの人を捕まえるべき」


「私たちが知る忍者の技はクノさんが伝えてくれたものです。当然、すべてを伝えてくれているとは考えられません。そうですよね?」


「むろん、そうだ」


 くのいちは頷いた。


「自らの弱点となるものまで教えるほど親切ではない。忍法だけでなく魔法まで使えるわたしに弱点があるかと言われれば、なかった訳だが」


「そうです。なかった」


 シズクさんは同調した。


「クノさんはこれまで完全無欠最強最悪の忍者でした! それが、遂に弱点を得たんです! それがシンくん。あなたです! もし捕まえるというのならハートキャッチ! クノ・イチ! それこそがあなたの使命なんです!」


「……ばかなの?」


 なに言ってんだこの人。


「ええ! えーえー! バカと言われても構いません! 私がクノさんの担当にされてもう三年、どれだけ苦労してきたと思ってるんですか! シンくん! この人ね! ずっと自分は同性愛者だ、とか言って、私たちの身体を好き勝手に、欲望のはけ口にしてきたんですよ!? わかりますか!? 東大を出て! キャリアとして国を動かそうと志を持っていたのに! 与えられた仕事は法の支配が及ばないバケモノの性欲処理!」


 ガチギレだった。


 ドライバーの人も静かに頷いている。


「同性愛者だったの?」


 女性ばかり出てくるのはそういうことか。


「魔物が初体験だったからな。わたしも乙女としてショックを受けていた。ペニスというものに対して恐怖心があったのだ。勢い、女の方がスキなのではと思っていた、恋心を知らなかった」


「……」


 そんなこと僕の知ったことか!


 叫びたかったが、境遇には同情の余地がない訳ではない。つまり僕にとっての魔物がくのいちであるという意味で、理解できるからだ。


「シン。君の複雑な気持ちはわかる」


「たぶんわかってないと思うよ」


「過去のことを知れば、まだ幼い君がわたしを汚れた女のように感じるのはわかる」


「……汚れた女って言うか」


 ただの犯罪者。


「わたしは、確かに今まで、出会った女を抱き捨てる。みだらで、ふしだらな女だった。しかしもう違う。もう君だけだ。君が一番だ。君が嫌だと言うならば君だけを愛する。だから恋人になってくれ。そして君が望んで飼われるようにする」


 わかってくれてないのは明らかだった。


 望んで飼われるってなに?


 絶対、間違いなく大人の最低なヤツだ。


「やった!」


 そしてシズクさんが喜んでいた。


「さ! 受け入れてください! シンくん!」


「いや、あの」


「受け入れへんかったら解剖や」


「!?」


 無言だったドライバーの人がつぶやいた。


「シンがわたしのものにならないなら解剖だな」


 くのいちが乗っかった。


「元々死体の予定でしたから、解剖です」


 シズクさんは眼鏡のつるを押し上げ、真顔。


「はい。よろしくお願いします」


 怖くてそう答えるしかなかった。


 僕を抱きかかえるくのいちの腕の力が、もう隠されたなにかごとミンチにでもしてきそうなほどの圧迫感を全身に与えていた。恋愛ごっこができないなら、僕に存在価値はないのだ。


 飼うか飼われるか。


 僕の未来はそこにしかないらしい。

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