第15話 性的嗜好に効果的な要素

あらすじ 生きるべきか死ぬべきかそれが問題だ。


「やっほぉおおおっ!」


 すとん。


「はじめて恋人ができたーっ!」


 くのいちは子供みたいに喜んでいる。


 僕が座席に落とされたと思った瞬間には全裸のくのいちが車の天井に張り付いていた。ウェディングドレスが着た形のまま抜け殻になっている。どういう仕組みかわからない。


「おめでとうございます」


 シズクさんは無表情で拍手している。


「お二人の門出を祝うためにも、安全を確保する必要があります。クノさん。私たちはシンくんをお二人の愛の巣に運びますので」


 棒読みだった。


「むろん、客は丁重にもてなし、あの世へ送り届けよう。シンは任せた。ぬかるなよ」


 そして次の瞬間には例のぴったりスーツに着替えていた。マフラーで口元を隠してルーフトップを開けたかと思うともう外に飛び出している。最強最悪だが、性格は素直らしい。


「はい、ドローン自爆!」


「耐ショック防御やで」


 ドン!


 シズクさんの言葉にドライバーが答えて、クラックションを叩いたと思ったら音の後に車両が浮き上がるような衝撃が襲ってきた。僕は床を転がり、立て直そうとするハンドル捌きに翻弄される。なにがなんだかわからない。


「ちゃんとシートベルトしてください」


「する暇がありましたか!?」


 やっと車の走行が落ち着いて背後を見ると、爆発の煙らしきものと、燃え上がる周囲の林が見えていた。例のドローンは爆弾だったらしい。


「くのいちさん、殺したの?」


 そういう狙いの作戦?


「まさか、あれくらいで死ぬならとっくにってますよ。それが出来ないからシンくんに頼んでるんです。自爆は普通に援護ですし、必要な証拠隠滅です。心配してます?」


「……あんまり」


 確かに、死んだ気はしていなかった。


「理解がはやくて助かります」


 シズクさんは言うとシートベルトを外した。


「では、到着までにこちらを読んでください。クノさんのプロフィールです。基本的な情報ですが、頭にたたき込んで、恋人として一日も早く、言うことを聞くように飼い慣らしてください」


 スマホを手渡してくる。


「……中学生に過大な期待では」


 僕は言う。


 こっちだってはじめての恋人なのだ。飼い慣らすとかなんとか以前に、どうしたらいいのかまったくわからない。どうしようもない。


「いいえ。若さ、可愛さ、クノさんの性的嗜好に効果的な要素ではあります。時間をかければかけるほど飽きられる可能性がある。それを肝に銘じておく方が、シンくんの寿命も延びるかと」


 だが、現実はさらに過酷らしい。


「……」


 成長したら終わり?


 色んな意味での綱渡りはこうしてはじまった。

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