第12話 超法規的ヘンタイくのいち

あらすじ くのいちは自分のことを棚に上げ。


「こんな、ガキに庇われて……」


 スミレは立ち上がる。


「覚えてろ。クノ・イチ、あんたは必ず、あたしが捕まえる……んで、そのガキは貰う」


 そう言って雪かきを振った瞬間、吹雪が周囲を包んでその姿は見えなくなる。僕が寒さに震えるとすぐくのいちが抱きついてきた。


「まったく、口の減らない。魔法が苦手な魔女にわたしが遅れを取るはずがないだろうに。だからいつまでも追い女など」


 頭の上に顎をのせて、言った。


 ぎゅっと押しつけられたおっぱいの圧が凄い。


「姉妹みたいで、魔女を裏切ったって」


 居心地が悪い。


「ああ……それは違う」


 僕の質問にさらにぎゅむむと力が入る。


「わたしは、最初から忍者だった。赤子の段階で敵対組織に送り込まれて潜入調査をするのが忍者のならわしだ」


「赤ん坊の段階で忍者?」


「そう目覚めるよう条件付けされた赤子、ということだ。自ら使命を見出し、忍法を会得し、そして帰ってくる。それが出来なければ一人前にはならない」


「過酷、だね」


 ならば、魔女を裏切りたくて裏切ったという訳でもないということなのだろうか。頭の上にのった顔の表情までは見えない。


「むろん、平坦な道ではない」


「うん」


「魔女を裏切り、そして忍者も裏切った」


「……うん?」


「ムカつくだろう? 赤子を操る組織など」


 くのいちはストレートに言う。


「確かに?」


「だから帰ったついでに頭領を名乗っていた男を殺してやった。ただ、わたしが思っていたより忍者は数が多く、世界中に広がっていてな。未だに壊滅には至っていない。そこは落ち度だ」


 結構なことをやってる。


 感情的には理解できるのだが、この人はどの面を下げて他人をムカつくとか言えるのだろうかという意味で困惑はある。いや、そんなことより、忍者ドローンが味方なのだから忍者は味方なんだと思っていたのだが。


「くのいちさんは、どういう組織の人なの?」


 僕は気になっていたことを尋ねる。


「その、シズクって人のドローンに助けられたけど、その人たちは忍者じゃないの? 僕に隠されたなにかを追ってる人たちって……」


「シズクたちは文科省だ」


「……もんかしょう」


 聞き覚えはある単語だったが、文部科学省と結びつくには少し時間がかかった。つまり国、日本国。このくのいちのバックには国がいる。国がバックアップしている。国にバックアップされながら、好みだから僕を助けている。


「くのいちさん、公務員?」


 つぶやける言葉はそれだけだった。


 このくのいちに国のお墨付きがついてるの?


「給料は、国から出ているな」


「……」


 最悪じゃない?


「だから心配は要らないぞ? わたしが法だ」


 最悪じゃない?


「法とか言わないでください」


 音もなくドローンが戻ってきていた。


「そんな言い方、シンくんが誤解するでしょう? 心配ないですからね。国でも持てあましてるので法律で縛れないだけの人ですから」


「おい、厄介者みたいに言うな」


「みたいじゃなくて、完全に、国からだって厄介者の扱いされてるんですよ。クノさん。みんな言ってますから。勘違いしないでください?」


「だれだ、総理か、殺されたいのか」


「総理を軽々しく殺すとか言わないでください」


 超法規的ヘンタイくのいち。


 僕を助けてくれたのはそういう人だった。

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