いつつめ
何百年、何千年、何万年。
長い間生きているからこそ、忘れやすいことが多かった。
遥か昔に私のことを育ててくれた師匠の名前は覚えていないし。
それから少し経った頃に私と一緒に暮らしてくれた人の名前は覚えていないし。
少し前に共に戦った人の名前は覚えていない。
その時に感じた感情、想い、感触。
それら全ては覚えているのに、どうしても名前だけが覚えられない。
そのことを一度、先ほどの人達に伝えた。
全員が、「構わないよ」と、笑ってくれた。
その姿に申し訳なくなったことを覚えている。どうして笑っていられるのかと、問い詰めたことがある。
皆、そこまで笑っていた顔を微笑に抑え、こう言ってくれた。
「だって君なら、存在は覚えていてくれるだろう?」
言い方は皆それぞれ違った。けれど、言ったことはどれも一緒だった。
一回目は不服そうに同意し、二回目は少しだけ声を抑えながら。三回目は一回目と二回目のことを思い出しながら、涙を流していた。
そんな私に対し、皆優しく接してくれた。
そんな、温かい思い出があるから。
だからせめてものお返しに、その時の感情を、想いを、感触を。
全て、全て。例え名前をいつまで経っても思い出せなくても。
それらだけは心の中に留めていようと。そう一人で決意する。
もう君達は隣にはいないけれど。
それでも私の中では生きているから。
だから安心して、ゆっくり休んで。
気が向いたら、他の人達に教えるよ。
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