マツリちゃん
これは彼の個性として着ているわけではなく、彼のお母さんがおかしいから着ている。マツリちゃんのお母さんは何故だかマツリちゃんを女の子だと思っていて、そのように育てている。そのため、マツリちゃんの綺麗な黒髪はとても長くて腰まであって、学校では女子用のセーラー服を着用している。普段着も女の子用だ。
小さい頃からマツリちゃんは女の子の格好をしていた。仮面ライダーよりもプリキュアを、カードゲームよりもシルバニアファミリーを与えられてマツリちゃんは育った。マツリちゃんのちんちんは神様が間違えてマツリちゃんに付けちゃったのだとマツリちゃんのお母さんは本当に信じている。これでマツリちゃんがお母さんの思い込みの通り、女の子の様に育つ───なんてことはなく。マツリちゃんは誰より男らしかった。喧嘩すれば口よりも先に手が出て、フリフリのスカートで走り回り、カブト虫を鷲掴みにするのに躊躇がなかった。
僕───
そんな僕がとうとう陰湿ないじめにより堪忍袋の緒が切れた(であろう)マツリちゃんの逃避行の同行者に選ばれるとは一体どういう風の吹き回しだろうか。マツリちゃんは僕と幼なじみだということすら忘れてると思っていたのに。
そんなことをぼんやり考えてるとマツリちゃんに睨まれる。
「おい、サク何をぼさっとしてんだ。早く後ろに乗れ」
「後ろに乗れってたってマツリちゃん、なんだいこのボロボロの死に損ないみたいなチャリは」
「俺の愛車。旅をするには足が無くっちゃな」
マツリちゃんの愛車はボロッボロでサビサビで今にもバラバラになってしまいそうな小学生の頃から乗ってる(乗ってるとこを見たことがある)ピンク色の自転車だった。彼は準備万端という風にサドルに腰掛け、この今にも壊れそうなオンボロチャリの後部に乗れと急かしている。正気だろうか?
「いや、マツリちゃん流石に無理…」
「あっ、やべやべやべモリセン来てんじゃん!おら、サクつべこべ言ってねぇで男なら腹括って乗れ!」
遠くから生徒指導の森先生が猛ダッシュでやって来るのを見つけたマツリちゃんが僕に激を飛ばす。しぶしぶオンボロチャリの後部に座ると、マツリちゃんは勢いよくペダルを踏んだ。
「行くぞ!」
僕が乗っていることなどものともせずにマツリちゃんは力強くグングンとスピードを上げていく。森先生はとっくに小さくなってあっという間に僕らは学校から脱出した。
「あばよ!クソ学校!!」
中指を立てながら叫ぶマツリちゃんは本当に小学生の頃から変わってない。
「マツリちゃん、あのさあ」
「あー!?なんだよ聞こえねーよ!!」
「あのさあ!旅ってどこ行くつもり!?僕、お金とか持ってないんだけど!!」
「安心しろ!俺もだ!!んな遠くには行かねえよ!!まずは電車に乗る!今向かってんのは駅だ!」
「電車!?」
「そうだよ!まあ、俺に任せとけ!」
ビュンビュンと風を切ってチャリは進む。
風の音に負けないように大声で応酬しながら僕らはどうやら駅に向かうようだった。
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