第2話 運だけで生きてゆく

「ここが俺が8ヶ月間かけて目指してきた

 探偵学校 STM か。」


どこかの館かと思うほど豪華で美しい校舎を眺める俺の横を、ライバルたちが次々に通り過ぎてゆく。


「なんとかなるだろ、、、」


不安なのか好奇心なのか、諦めなのか希望なのか自分にも理解できないこの感情を言葉で押さえ込むようにして(実際は吐きそうだが)校舎の中へと入っていった。



会場の席につき、筆記用具などの確認をしていると、隣の席から何やらボソボソと声が聞こえてきた。


(だいじょうぶだ。俺なら行ける。やれる ぞ。しんぱいするんじゃない。。。、、、)


すごく気になる。

出来るだけ顔は前に向けたまま、目線だけを横に向けてみた。

そこには想像とは裏腹に、超ガタイのいい人が俯いて座っていた。


目線をゆっくりと戻し色々なことを思ったが

「集中しないと。」

と、自分に言い聞かせて目を閉じて勉強してきたことを思い返すことにした。



とうとう試験開始の時間だ。


1教科目 推理

いきなり探偵っぽい科目から始まる


「「開始!」」

試験官の合図とともに、皆がいっせいに問題用紙を開く。


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これは大阪にある小さなアパートで起きた殺人事件である。ヒントを元に、犯人を推理せよ。ただし、犯人だけでなく、その理由まで説明できるようにすること。


ヒント①

アパートには被害者を除いて、住人2人と管理者しか住んでおらず、死亡推定時刻付近でアパートへの部外者の出入りは確認されなかったため、容疑者は、被害者の隣の部屋に住む被害者の部屋が夜にうるさいと文句を言ったことがあるというAさんと、反対側の部屋に住んでおり、1年ほど前に東京から引っ越してきて、被害者とは仲が良かったというBさん。被害者とは10年以上の付き合いだといい、被害者と部屋は離れている管理者のCさんの3人である。


ヒント②

被害者の部屋にはお酒とおつまみとして、サラミ、ところてん、チーズが置いてあったという。


ヒント③

被害者はテレビやラジオなどは持っていなかった。


ヒント④

死亡推定時刻は夜中の1時で、その少し前にもAさんは騒音に腹を立てていたという。


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問題をじっくりと読んでいた俺は思わず声が出そうになった。


「と、、と、、、ところてん!?!?!?」


そう。俺は小学校の頃に当時の好物だった、ところてんについて自由研究したことがあったのだ。


「やっぱり俺は運がいいな!

知ってるぞ。確かところてんは、関西では

黒蜜を使って甘く仕上げてあるため、

お菓子として出てくることが多い。

一方で関東では、酢醤油などでさっぱりとさ せることによって、おつまみとして使われることが多いんだ!」


「加えて、Aさんは夜の騒音でトラブルになるほどなのに、反対側に住むBさんはそんなことはない。しかも、被害者はテレビやラジオを持ってなかったと言うし、騒音の正体はその音でもない。となると、夜にお酒を飲んでいたからうるさかったのだろうが、1人で飲むぶんにはまず騒ぐことはないだろうな。ということは、Bさんが、一緒にお酒を飲んでいたことになり、事件の前の夜も晩酌をしていた。その証拠に、関東の人でないと出ないはずのおつまみとしてところてんが出ていたということか。もし仮に、AさんやCさんの犯行だとすると、被害者の部屋にいたはずのBさんが気が付かないはずがないもんな!」



こうして1教科目の試験を無事終えた。


横の子も、安堵の表情を漏らしていた所からすると、何とかなったのだろう。


2・3教科目は、普通の学校でもある英語と

国語で例年どうりの難易度だったため過去問をやった時くらいの点数はとれはずだ。


4教科目 体育

これは普通の学校での入試ではまず無いだろう。探偵たるもの最低限動けなければならないということなのだろが、これが一番不安だ


どんな競技をするか、どう採点するのかも当日にならないと発表されない。


ピンポンパンポーン♪

「今年の体育の競技は二人三脚です。」


「二人三脚???」

突然の放送に会場内はザワつく


「今からこちらが発表していく受験番号が、ペアとなってタイムを競っていただきます。

採点方法と致しましては、平均タイムと比較した時の差を点数化する方法とします。


では順番に受験番号を読み上げてまいりますので、呼ばれた人は相手をさがしてください。

028と137 、256と319、2...」


「急に二人三脚とか言われても、学校の体育祭でやったようなやってなかったようなっていうレベルだし、そもそもこんな状態で、知らない人といきなりペアを組めって言われてもなぁ、、、」


「777と、、


「俺だ!!」


368!」



「368....って、番号で言われても分か」

「あなた、777よね?」


ドキッとして横を見ると、そこには小柄で、ホワイトからピンクへと綺麗なグラデーションがかかった長い髪が良く似合う、異世界から来たのかと言うほど美しい少女がこちらを覗き込むようにして見つめていた。


< 続く > (次回: 第3話 立てば芍薬 )

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