#59 少女の地獄




 ※クミ視点







 いつの間にかウトウトしていた様で、ハッと意識が覚醒すると、私はリビングのソファーで横たわっていた。


 う~ん、と背伸びをするとお腹に物凄い違和感が。


 ん?と自分のお腹を見ると、ぼっこりとふくらんでいる。


 んんん!?

 ナニコレ!?


 慌てて手で触ると、リアルなお腹の感触が。

 妊娠してる・・・?


 え!?なんで!? っていうか、エエエエェェ!



 私が大混乱してアタフタしてると、キッチンからママが慌てて私の元に駆け寄ってきた。


「大丈夫クミ!? お腹が痛くなったの!?」


「え?ママ、どうしよワタシ、知らない間に妊娠してるよ!?」


「クミ、落ち着いて!大丈夫だから、ママが傍に居るから!」


「でもでも、私妊娠なんて知らないよ・・・」


 すがる様にママの顔を見ると、ママは涙を流して私を見つめていた。


「クミ、落ち着いてね。 今はショックできっと記憶が曖昧になっているのよ」

「あなたはね、今妊娠8カ月目なの。お腹の赤ちゃんのお父さんのことは覚えてる?」


「え・・・コータくんとの子なの?」


「いいえ・・・あなたのお腹にはね、コータくんとは別の男性の赤ちゃんが居るのよ」


「え!?ウソよ! わたし、コータくん以外の男とそんなことするはずない!」


「うん・・・・でもあなたはコータくんを裏切ったの」


「じゃぁコータくんは今どこに!?」


「・・・コータくんは、もう居ないの・・・」


「え? どうしてよ?」


 すると、ママは嗚咽おえつを漏らして泣き出した。


 私は嫌な予感がして、ママの肩を掴んで揺らして問い正した。


「ねえ!ママ! コータくんは今ドコに居るの!? 居ないってどういうことなの!」


 ママが何も答えてくれずに、再び私が興奮しだすと、リビングにチョコちゃんが現れた。

 チョコちゃんのお腹も大きく、チョコちゃんも妊娠しているのが分かった。


「クミちゃん。コータくんにはもう会えないんだよ? コータくんはもう死んじゃったんだよ? わたしとクミちゃんが裏切ったから、コータくんは・・・!」

 チョコちゃんは最後叫ぶようにそう言うと、うずくまって大声で泣きはじめた。


「うそだよ・・・・そんなはずない!コータくんが死ぬなんてあるはずない!」


 私の叫びにママもチョコちゃんも答えてくれず、リビングは二人の泣き声で押しつぶされる様な空気が充満していた。


「・・・今からコータくんのお家に行ってくる・・・コータくんに会い行く・・・」


 私はそう言い残して、重いお腹を抱えるように歩いて、コータくんのお家を目指した。





 コータくんのお家に着くと、大勢の人であふれていた。

 白と黒のストライプの幕が周囲を囲っていて、お葬式が行われていた。


 私は意識を奪われそうな重いプレッシャーに耐えながら、何とか玄関から家に上がらせてもらった。


 コータくんの家に上がると、奥からお経が聞こえてくる。

 私はガタガタ震える体を何とか動かしながら、コータくんの部屋へ向かった。


 コータくんの部屋の前に立ち、扉に手を掛けると同時に横から声をかけられた。


「今更なにしに来たんですか?」


 コータくんの妹ちゃんだ。


「コータくんに会いに来たの。 コータくんどこに居るのか妹ちゃん知ってる?」


「ふざけんな!コータはあんたたちのせいで死んだんだ! お前たちがコータを殺したんだ!」


「チガウチガウチガウチガウチガウ!私は何もしてない!コータくんが死んだなんてウソだ!」


「おまえ!おまえのせいで!」


 妹ちゃんはそう叫び、私に殴りかかってきた。


 殴り倒された私の体を妹ちゃんは蹴り続けた。







 そこでベッドから落ちて、目が覚めた。


 どうやら夢見て暴れたせいでベッドから落ちたみたい。


 お腹を触ると、妊娠などしていなく、元の形に戻っていた。

 でも、急に吐き気がして、慌てて部屋を出てトイレに駆け込んだ。





 なんてひどい夢だ・・・

 まるで地獄だ。



 汚れた口をすすぐ為、洗面所に行き鏡で自分の顔を見ると、真っ白な顔をしてまるで幽霊の様に額に髪が張り付いていた。


 顔を洗ってから、フラフラになりながら部屋に戻りベッドに横になる。



 夢を見た意味を考える。

 予知夢? それとも願望・・・?


 どちらもあり得ない。

 この地獄のような夢は、教訓なんだ。

 私が失敗しないように、学ばせてくれたんだ。


 そう結論付けて、再び眠りについた。








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