豊穣の章

#55 イシザキくんとショーグンさま




 超絶楽しかった夏休みも終わり、二学期が始まった。


 朝、学校への道すがら、クミちゃんGカップのビキニ姿を思い浮かべて現実逃避しながら歩いた。



 教室に入ると、既にみんな登校していた。


 クミちゃんやチョコちゃん、他にもサキちゃんとかが固まっている方に目を向け『おはよー』と声を掛ける。



 すると、クミちゃんがチョコちゃんの肩をトントン叩いて二人がコチラを見る。

 クミちゃんがチョコちゃんの耳元に何かを囁いたと思った瞬間、チョコちゃんが猛スピードでコチラに突進してきた。


 なんだなんだ!?と思った瞬間、チョコちゃんの頭突きを鳩尾みぞおちに喰らった。



 いやおかしいだろ!

 僕のこと好きって言ってたじゃん!

 なんで人間ロケットかましてんの!


 うずくまってヨダレ垂らしながらうめいていると

「だ、大丈夫!?」とクミちゃんが駆け寄ってきた。


 こ、こいつが人間ロケットの発射ボタンを押したショーグン様だな・・・?

 クミちゃん改めキムちゃんって呼んでやる。


『・・・な、なしてこげなこつ・・・』


 蹲った体勢のまま、チラっとチョコちゃんに視線を向けると、両手で頭のてっぺん抑えながら「つまづいちゃった」と。



 なるほど・・・僕に駆け寄ろうとしたら躓いて、僕の鳩尾にダイビングヘッドしてしまったと。

 チョコちゃん、これからは君をイシザキくんって呼ぶことにしよう。




 何とか立ち上がれるようになって、イシザキくんに一言


『上履きスリッパで走ると転ぶからね! ダイビングヘッドは人に向かってしちゃダメだよ!イシザキくん!』


「え?イシザキくんってダレ?」

 と、チョコちゃんたち女性陣にはイシザキくんが誰なのか分からないようだったけど、マサカズとケンには分かったようで、二人で爆笑してた。


 チョコちゃんたちには近藤くんが「キャプテン翼というサッカーアニメに出てくるキャラクターでして、主人公の翼くんのチームメイトでして、ガッツ溢れるプレーがウリなんですが、いつもダイビングヘッドで顔面でボールをクリアーするというお約束キャラなんです、ハイ。 あ、因みに容姿は丸坊主に繋がり眉毛ですね」とメガネをクィっとしながら説明してた。


 いや、ボケの説明とか恥ずかしいから辞めてよ!








 こうして不穏な空気のまま、高校2年の二学期がスタートした。


 夏休みの宿題を無事に提出し、二学期初日から授業が始まる。


 クラスメイト達は昨日までの夏休みの解放感を惜しんでいるのだろうか。それとも堕落した休日から学校という現実に引き戻された気怠さなのだろうか。どこか陰鬱いんうつとした雰囲気の中、僕はある少女の動向に注視せざるを得なかった。


 そう、朝からやらかしているイシザキくんことチョコちゃん。

 奴が何を考えての行動だったのか、未だ謎を残したままだ。



 そして、そんな僕の危機感を余所に、イシザキくんは休憩の度に僕のところに来ては、何も言わずにヒザの上に座る。

 ちょこんって、僕から見て右向きに。チョコだけに。 

 やかましいわ!


 やはり何を考えているのか、わからん。


『チョコちゃん、なにしてんの?』


「定位置の確保です」


『え?定位置?』


「コータくんは気にしないで」


『いや、気にするだろ!』


(どうせまたショーグン様の入れ知恵だろ)と思い、クミちゃん改めキムちゃんの方を見ると、親指立ててグー!ってポーズしながらウインクしてる。

 可愛いよ、そのキメ顔! 可愛いんだけどさ、どうしても面白がってる様にしか見えないよ!



 これがチョコちゃん流のグイグイアピールってやつか・・・

 そのことにようやく思い至ったのがお昼前。今更だけどチョコちゃん流の返しをすることにした。


『チョコちゃんのお尻がプリプリ柔らかくて、お兄ちゃんの毒マツタケが大暴れしちゃいそう・・・ハァハァ』

 と息を荒くしてチョコちゃんの耳元で囁くと、名残惜しそうにヒザから降りてくれた。


「続きはお家に帰ってからです・・・」と一言残して。

 いやチョコちゃん!メス顔!まさかの路線変更!? 続きなんてしないからね!







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