#50 マイファーストキス






 地元の駅から快速列車で30分揺られ、降りてからバスで15分。ようやく動物園へ到着。

 移動の間ずっと手は繋いでいた。 

 相変わらずのいちゃいちゃバカップル。


 移動中の会話は「動物園着いたら何から見ようか」とか「お弁当作るのに朝5時半に起きてキッチンで料理始めたはずなのに、気がついたら30分くらい立ったまま包丁握りしめて寝てたよ」とか、今日のデートの話題で盛り上がってたんだけど、昨日反省会をしているはずのチョコちゃんとのデートの話題が全く出てこなくて、敢えてその話題を避けてる様に感じた。




 まだ開園してから1時間も経っていない時間だったので、まずは混雑する前に一番人気に行こう!ということでペンギンの所へ向かった。


 ペンギンコーナーでは、ヨチヨチ歩くペンギンたちを二人でキャッキャ騒ぎながら写メ撮ったりして満喫した。


 その後も、アザラシやサイにゾウにお猿さんにフラミンゴや孔雀と、次々に見て回った。



 お昼時になると二人とも歩き疲れたので、昼食を取る為に芝生エリアに移動して、木陰があったので持ってきたレジャーシートを敷いて休憩することにした。




 ここからが本日のメインイベント、手作り弁当の交換だ。


 クミちゃんから受け取った弁当箱を開けると、まず目に入ったのはご飯の上にサクラデンプで作ったハート、そしておかずは、定番の玉子焼き、から揚げ、アスパラベーコン、あとはパスタにきんぴらゴボウと、種類が多く、色合いも栄養もバランスが良さそうだった。


『凄いね! おかずの種類が多い! 作るの大変だったでしょ?』


「から揚げときんぴらは前の日の夜に作っておいたから、そうでも無かったよ?」


『そっかぁ、僕も前の日から少し準備してたけど、こんなに色々は作れないや』


「まぁ、ママにアドバイス貰ってたから綺麗に作れたんだけどね」


『それでもクミちゃんが作ったことには代わりないでしょ?』

 そう言いながら、ご飯を一口食べると、ご飯はふりかけを事前に混ぜてある状態だったのに気が付いた。


『ごはんのふりかけも先に混ぜてあるの?』


「うん、そうだよ。 食べる時に混ぜるよりも綺麗に食べられるでしょ?」

「それより、コータくんのお弁当も可愛くていいね!」


『そう? おにぎりとかクミちゃんサイズを考えて作ったんだよね』

『でも、クミちゃんのお弁当に比べると、色合いが地味だしバランスもイマイチだね。玉子率高めだし』


「そうでもないよ? それにポテサラも焼きそばも味付けバッチリで美味しいよ」


『焼きそばは普段からよく作るからねー』



 そんな風にお互いの手作り弁当を褒め称えながら食べた。



 食べながら『午後はどうしよっか?』と希望を聞くと、「もう動物見るのはいいかなぁ。 しばらくここで休も?」とのことだったので、食べ終わったお弁当箱を片づけ、二人で寝転がって休むことにした。


 少し風が吹いていて、木陰に居ると比較的涼しく快適だったせいか、クミちゃんは寝息を立て始めた。



 クミちゃん、朝弱いクセに、5時半に起きたって言ってたしなぁ

 寝顔可愛いなぁ

 チョコちゃんのキスのこと、どうやって聞こうかな・・・


 クミちゃんの寝顔を眺めながらそんなことを考えてたら、僕もいつの間にか寝ていた。



 目が覚めると目の前にクミちゃんの顔があった。

 僕の寝顔をのぞき込んでいたようだ。


「コータくん、おはよう」


『おはよう。いつの間にか寝ちゃってたみたいだね』


「うん、私もさっき起きたとこ。30分くらい寝てたみたい」

 そう言いながら、クミちゃんは僕の顔を覗き込む体勢のままだった。


 頭が寝ぼけていたせいか僕もそんなクミちゃんの顔を見惚れていた。


 お互い近距離でじっと見つめ合ったまま

『今日のクミちゃん、いつも以上に可愛いね。 髪型が変わったせいかな・・・』と僕が零すと、クミちゃんの顔が近づいて、見つめ合ったまま唇同士が触れた。


 あっ、って思ったけど言葉が出てこず固まっていると、何度も何度もキスされた。


 ほっぺにキスして貰った事は、今までに2回あったけど、唇同士のキスは初めてだった。


 何度かキスを繰り返していると、今度は口の中に舌が入ってきた。

 クミちゃんの舌が僕の舌を探す様に口の中で動き回り、僕が舌でそれに答えるようにクミちゃんの舌に触れると、クミちゃんの舌は更に動きが激しくなった。


 口の周りはお互いのヨダレでベトベトで、息も苦しくなって、クミちゃんの背中を強めにタップして降参した。


「ごめんね・・・コータくんの寝顔見てたらガマン出来なくなっちゃった」


『ううん・・・でもちょっとビックリした』


「嫌だった・・・?」


『嫌じゃないよ・・・嬉しかったよ・・・唇同士のキス初めてだったから、うん、嬉しかった』


「じゃぁ、コータくんのファーストキスは私だネ!」


『そうだね。僕、クミちゃんとファーストキスしちゃったんだね』


 クミちゃんは、寝ころんでいる僕に抱き着いて

「ふふふ、コータくん、大好きだよ」と言ってくれた。


 僕はクミちゃんの頭をそっと撫でながら『ぼくも』とだけ短く答えた。


 それを聞いたクミちゃんは無言のままで、僕に抱き着く腕の力が強くなりギュっと締め付けられた。


 ドサクサ紛れに言った僕の言葉に無言で答えてくれる気遣いが嬉しかった。

 それにギュっと僕の体を抱きしめてくれるのも心地よかった。



 僕は相変わらず臆病のままだし、考えれば考える程迷宮の中に迷い込む様に出口が見えなくなっていたけど、でもクミちゃんとこうして居ると、罪悪感よりも安心感が強くて、気持ちが軽くなるようだった。


 クミちゃんの最大の魅力って、コレなのかも

 心のオモシを軽くするように寄り添ってくれる

 僕の負い目も軽くして、心の温もりを与えてくれる


 クミちゃんは、取り繕うのやめて素で何でもズバズバハッキリ言う様になって口調も遠慮が無くなってるけど、やっぱりクミちゃんの本質は癒し系のままなんだろうな



『クミちゃん?』


「ん~?」


 名前呼んで顔を上げたのを狙って、今度は僕からキスした。

 控えめに舌を口に入れて、舌同士を少し絡ませてから離れた。


 でも自分からしておきながら照れ臭くなってしまい、クミちゃんの視線から逃げるように体を起こした。


 更に自分たちが今、動物園の芝生エリアに居て、周りに家族連れとか数組居ることを思い出し、めちゃくちゃ恥ずかしくなって、荷物まとめてクミちゃんを引きずる様に慌てて移動した。





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