#37 親友の後悔



 ※マサカズ視点






 水木は話し終えると静かにコーヒーカップを口に運んだ。

 再び俺たちの間に沈黙が続く。



 とは思っていたが、想像以上に重い話だった。

 情報量多すぎなのと色々ショッキングな内容だったため、頭が追い付かない。

 コータに対して不義理だったとは思うが、それを一方的に責めるのも違うと思った。

 同情はするけど、共感は出来ない、といったところか。





「辛い話だったのに、話してくれてありがとうな」


 俺がそう話すと水木は少しビックリした顔をした。


「今の話聞いて・・・私のこと軽蔑しないの?」


「軽蔑? うーん、どうだろ? 正直まだ考えがまとまってないな。 でも話してくれたことには感謝してる」


「そっか・・・やっぱりマサカズくんって良い人だね」


「そうでもないよ」

 言葉少なく否定すると、水木はふふふって微笑した。




 水木がここまで包み隠さず話してくれたのなら、俺からも何か話すべきかと思い、話す前に確認することにした。


「なぁ水木、確認なんだけど、コータとはもうヨリを戻そうとか考えていないのか?」


「うん。さっきも言ったけど、クミちゃんの邪魔は絶対にしたくない」


「そうか。なら、杉山とは?」


「それも無いよ。あの頃はコータくんとのことで悩んでて色々と可笑しくなってただけ。杉山先輩のことはコータくん以上にありえないよ」


「なら、もし水木が知りたいのなら、コータと杉山の間に何があったのか話すけど、どうだ?」


「え!? それは・・・」


「まぁ、今更聞かされても困るだけかもな。面白い話でもないし」


 少し沈黙が続いたあと

「やっぱり聞きたい。マサカズくん、教えて欲しい」


「そうか・・・。 1年の頃に杉山がサキとクミの二人にしつこく付きまとってたことがあったんだ。二人とも杉山の噂知ってたから完全に無視して逃げてたんだけど、それでもしつこくて結構身の危険も感じる様になってたらしいんだ。 それでサキがケンや俺やコータに相談してきたんだよ」


「既にその頃サキとケンは付き合ってたから、ケンがすげぇ怒って俺もムカついたから「直ぐにでも杉山捕まえてぶん殴ってやる」って二人で言ったんだ。そしたらコータが『この件は僕に任せろ。二人は手を出しちゃダメだ』って言い出して、ケンはそれでも最初は納得していなかったけど、俺はコータが今までこういうトラブルとか何度も解決してきてるの見て来たから「わかった」って任せることにしたんだ。 あとで凄く後悔したけどな」


「それでコータは一人で杉山のこと徹底的に調べて、色々な杉山の弱みを掴んで来たんだ。学校帰りに制服でタバコ吸ってる写真とか他にも色々と。それであいつ『杉山と話しつけて来る』って言って一人で杉山の教室に乗り込んだ。それが後で知ったんだけど、コータの奴、杉山と揉めたらサッカー部に迷惑かかると思って杉山のところに乗り込む前に一人だけ退部してたんだよ」


「あいつ俺たちには言わないけど、レギュラーだった俺やケンのこと思って自分一人だけ犠牲にして杉山の件片付けようとしたんだ。俺もケンも後でコータが退部してたこと知った時すぐにそれが解って、でもコータのことだからこのことがサキやクミに知られるのを一番嫌がると思って、その時は何も言えなくてさ、すげぇ後悔した。コータ一人犠牲にして俺たち何やってたんだって」


「結局、コータは一人で杉山と話しつけて、杉山もコータにビビって大人しくなってた。 コータはサキたちに安心させるように『もう解決したよ。話したら解ってくれたよ』って何でも無いような風に言ってさ、いつもみたいにケロっとしてた」


「クミがコータのことを好きになったのは、この件が切欠だって言ってた。 杉山が水木からコータの名前聞いて逃げたのも間違いなくこの件のせいだ。 水木も解ってると思うけど、コータは凄い奴なんだよ」


「そんなことがあったんだね・・・私だってコータくんに助けられた一人なのに、何見てきたんだろ・・・」


「そうだな・・・俺もコータがサッカー部辞めたこと知った時、今のお前と同じ心境だったな・・・コータのこと親友だと思いながら、何見て来たんだよって」


 俺も水木も色々とままならないな。







 二人の間にまた重い空気が漂い始めてしまった。

 折角おしゃれなカフェでゆっくりしていたのに、と思い直して話題を変えることにした。


「そういえば水木は今朝コータの顔見たか? あいつメガネかけてただろ、マジックで顔に描いた」


「・・・・・・・え!?」





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