#36 臆病者の苦悩


 手が震えているのは、ヒナタさんに振られた時のことをリアルに思い出したせいだろうか。 震える僕の右手を両手で掴むクミちゃんは、僕の顔を真っ直ぐ見つめていた。


 僕もクミちゃんを見つめ返し、言うべき言葉を言おうとしたけど上手く言葉が出せなくて、無言になってしまった。


「コータくん。 無理に答え出さなくていいよ」

「コータくんは自分のこと冷たい人間だって言うけど、私はそうは全然思わないし、むしろコータくんほど他人の為に何かを出来る人見たことない。それに、もしコータくんの本性が実は冷酷人間だったとしても、それも含めて丸ごとコータくんのこと愛せる自信あるから」


 可愛くて、おっぱい大きくて、おしゃれなのにジャージで、誰にでも優しくて癒し系かと思ったら実は強引で我がままで、大胆で甘えん坊で悪戯好きで、お喋りしてても楽しいし、それで、こんなにも僕のことを想ってくれて、こんなに魅力的な女性、僕だって他に見たことない。


 あの時みたいに、ここで逃げちゃダメなんだろう。


 でも、どうしても次の言葉が出てこない。



 僕だってクミちゃんのこと、好きなのに。

 一緒に居たいのに。


「コータくん、もう一度言うよ。無理に答え出さなくていいからね。それに私、断られても諦める気一切ないから」


『僕はクミちゃんと・・・』


 どうして言葉が出てこなくなるんだよ

 一緒に居たいって言うだけなのに

 僕も好きだって言うだけなのに


 気が付いたらクミちゃんに抱きしめられてた。

 抱きしめられて初めて気が付いた。

 手だけでなく僕の体も震えてる。


『クミちゃん・・・僕は怖い。 ヒナタさんに振られた時、泣いたらダメだ、泣いたら負けだって自分に言い聞かせてぐっと耐えてた』


「うん」


『でも、それが凄く辛くて、必死にもがいて、新しい友達とかたくさん作って、クミちゃんとも前よりも仲良くなって、楽しい時間一杯過ごして、それで辛いの忘れようとして・・・・』


「うん・・・」


『でも、やっぱり失恋するのが怖いよ・・・好きな人に捨てられるのって凄く怖いんだよ・・・』


「・・・・」


『泣き言ばかり言ってごめん・・・情けなくてごめん』


「コータくん、ゆっくり考えよ? 私がずっと傍に一緒に居るからね? コータくんには助けて貰ったから、今度は私がコータくんの為に、コータくんのこと助ける番」


『うん・・・ありがと・・・クミちゃん、僕と一緒に居てほしい』


 情けないけど、なんとか言えた・・・ほんと情けないけど。

 クミちゃんの言葉に甘えて、ただ先延ばしにしただけなんだけど、それでも今はこれが精一杯だ。


「あーもう、こんなに重い話になるなら早まっちゃったかな。もっと私にメロメロになってもらってから告白するべきだったか」


『うぅ、ごめん』


「でも自分の気持ち全部コータくんに打ち明けられて、スッキリしちゃった」

「約束だよ。私たち一緒に居るんだからね? 恋人になるとかはゆっくり考えようね」


『うん、ありがと・・・。 でも、次は僕の方からちゃんと告白するよ』


 僕がそう言うと、クミちゃんの表情がパァと明るくなった。


「今言ったこと、忘れないからね? ちゃんと聞いたからね?」


『うん、待っててほしい』


「よし、そろそろ時間だし、集合場所に行こっか」


『そうだね、そろそろ戻ろうか』


 そう言って二人でイスから立ち上がった。

 立ち上がるとクミちゃんにシャツの裾を引っ張られた。


『ん?』ってクミちゃんの方を向くと、ほっぺにキスされた。


「今くらいはキスしてもいいでしょ?」と言って赤い顔してた。


『クミちゃん、顔真っ赤だよ』と指摘すると


「なんで急にいつもみたいに戻ってるのよ! 冷静に指摘しないでよ、ばか!」ってクミちゃんもいつもと同じに戻ってた。



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