#31 親友と元カノ



 ※マサカズ視点




 バスに乗り込み自分の座席を探し席の前に立つと、頭が痛くなってきた。

 事前に解っていたが、隣には水木ヒナタが座っている。


 クミにやられた。

 席、譲るんじゃなかった。

 クミのやつ、自分がコータの隣に行きたいだけじゃなくて、こうなることも解っててワザとだ。


 しかし今更後悔しても遅いし、それに一度水木ヒナタと話をしてみたいと思っていたので、いい機会かもしれない。

 流石に、バスの中でガヤガヤしているところで話すような内容では無いから、せめてその切欠作りくらいは頑張ろうと思う。


「水木、隣よろしくな」


「うん・・・」


「まぁ、コータのこと気にしてやり辛いと思うかもしれんけど、気にするな。 俺には気を遣わなくていいぞ」


「わかった・・・・マサカズくん、ありがとうね」


「あいよ」


 コータを振ったと聞いたあの頃は、”コータに対する裏切りを許せない””コータの無念を晴らしたい”という気持ちが強かったが、日が経ちコータも完全に元気を取り戻しているせいか、今では水木ヒナタに対しての怒りとかは不思議と感じなくなっていた。


 むしろ今は、興味のが強い。


 どうしてコータと別れたのか。

 何があってどう考えてそうなったのか。

 今、そのことを後悔してるのか。


 聞きたいことは尽きないくらいある。

 まぁそれでも部外者であることには変わらないから、1つでも何か聞き出せれば良い方だろう。



 ふとコータの方を見ると

『じゃぁ次のお題ね~!「サービスエリアでトイレに行ってる間にバスが出発しちゃって置いていかれました。あなたならどうする?」ハイ!ケンとチョコちゃんと鈴木さんは必ず1回は答えるように!』


 バスガイド無視して大喜利大会始めてる。


『近藤くん!テレパシー使うくらいならスマホ使えよ! なんでいつもテレパシー頼りなんだよ! 君のテレパシーはそんなに高性能なのか? 何ギガバイトなんだよ!』


 なんかコータのやつ、昔と随分変わったな。

 もっと控えめなやつだったのに、みんなの前であんなに楽しそうにはしゃぐなんて、昔は無かったな。





 コータたちの盛り上がりを横目に、俺は水木ヒナタに少し話しかけてみることにした。


「なぁ、水木? 最近どうだ? あんまり元気そうじゃないけど」


「うん・・・大丈夫だよ」


「そうか。 そういえば、自由行動はどうするんだ? サキとケンは多分二人で別行動だろうし、クミもあの様子だとコータたちの班に行っちゃうだろうな。 どこか行きたいところとかあれば俺が付き合うぞ?」


「え・・・でも悪いからいいよ。マサカズくんもコータくん達のところ行っていいよ」


「気を遣わなくて良いって言っただろ? まぁ迷惑だっていうなら俺も別行動にするけど、そうじゃないなら別にいいだろ?」


「うん、わかった・・・・ありがとうね」


「まぁドコにも行きたいところが無いって言うなら、どっかの喫茶店とかで時間潰してもいいし、折角だから買い物したいっていうなら荷物持ちくらいはするぜ?」


「ふふふ、マサカズくんって良い人なんだね。 それじゃぁどこ行くかスマホで調べてみるね」


 そう言って、水木ヒナタはカフェやアンティークのお店なんかを中心に色々調べ始めた。

 時折「こことかどう?」と俺にもスマホを見せて意見を聞いてきた。


 俺も普通に接していたけど、ふと気が付いた。


 コータと付き合ってた頃の水木ヒナタって、もっと男子との距離を取ってたよな。

 今、俺と普通に友達の距離で話している。


 コータやクミと同じように、水木ヒナタ自身にもここ数カ月で色々変化や成長があったんだろうな、と思ったし、こうやってあの水木ヒナタと普通に会話出来ている自分も少し変わったのかもしれない。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る