#27 反省はするけど未練や後悔は無い



 地元の駅に戻り、近くの喫茶店に入る。


 4人掛けのテーブルに案内され、クミちゃんの指示で片側の列の席に荷物を全部置き、もう片側に二人並んで座る。 こういう時、普通向かい合って座るんじゃね?って思ったけど、今日はクミお嬢様の為のデート、言われた通りに従ってクミちゃんの横に座る。


 アイスミルクティーを2つ注文し、ようやく一息ついた。


『ふぃ~、結構疲れたね』


「そう? 私はまだまだ元気だよ?」


『なら、爺やは荷物持ち頑張った甲斐がありました』


「ふふふ、ありがとうね」と言って、体をコチラに向けて満面の笑顔を見せてくれた。


『クミお嬢様的には、今日のデートはどうだった? 楽しかった?』


「うん、もちろん楽しかったよ?」


『そうだよね、僕も凄い楽しかったよ』

 そう言いながら、頭の中でヒナタさんと付き合ってた頃のデートを思い浮かべて、今日のデートと比べていた。


 ヒナタさんは、基本的にスキンシップしない人だった。

 手を繋いだり腕組んだりしたことも無い。

 一度手を繋ごうとしたことあるけど、ビクって手を引っ込まれちゃって、それからは諦めた。


 だから、デートでは微妙な距離が常にあったし、彼女の家に行ったことも僕の家に来たことも無かった。

 当時は、彼女がそれを望むなら僕もそれで良いと思っていたし、お喋りしているだけでも不満に思うことは無かった。


 でも今日、恋人じゃないとは言えクミちゃんといちゃいちゃデートをしてみると、女の子とのデートってこんなに楽しいんだな、っていうのが率直な感想だ。


 そう思ったら、改めてヒナタさんにフラれたのは僕の力不足だったと痛感した。

 初めての彼女で、”機嫌を損なわないか”いつも気にして接していた。

 楽しませることよりも、悲しませないことばかり気にしてた。

 そんなんじゃ一緒に居ても楽しくなんてないよね。


『クミちゃん、僕、今わかったよ』


「ん~?なにが?」


『ヒナタさんにフラれた理由』


「え!? また急にどうしたの???」


『あぁ、えーっと、今日のデート凄く楽しかったなって思ったら、ヒナタさんと付き合ってた頃のこと思い出してね』

『僕、ヒナタさんと手を繋いだことも腕組んで歩いたことも無いの。 ずっとヒナタさんの顔色伺って、ヒナタさんを悲しませない様にってそんなことばかり気にして、一緒に楽しもうとか全然考えてなかった』

『初めての彼女で、どうしていいのか解らなくて、それでビクビクしてたんだね。しかも当時はその自覚が全くなくて、それが当たり前だと思ってた』

『でも今日のデートでこんな風に女の子と二人で楽しく過ごすの初めてで、色々気付かされた。クミちゃん、今日はありがとうね』


「コータくん・・・そっか、ヒナタちゃんとそうだったんだ・・・」


『あの頃、マサカズとケンに色々相談してアドバイス貰ってたけど、クミちゃんに相談しとけばよかったかな。アイツら恋愛マスターかと思ってたけど、とんだ役立たずだ!』


「・・・・やっぱりヒナタちゃんのこと、忘れられない?」


『え?  あぁ違う違う。ただあの頃の失敗の原因が解ったって話だよ。ヒナタさんのこと、反省はしてるけど、未練や後悔じゃないよ。 僕、今凄く楽しく過ごせてるしね。クミちゃんとデートして、ぼっち先輩たちと楽しい放課後すごして、テストじゃ学年1位連覇して、これってもう「オレ、リア充」じゃね?』と言って、キメ顔でポーズ(右手の親指と人指し指でV作ってアゴにあてる)した。


「ふふふ、でもリア充自称するなら、童貞卒業してからだね。まだリア充の称号は早いかな?」


『エェー それすげぇハードル高くない!? 僕にはムリだよママァン・・・・卒論書いたら誰か卒業させてくれないかな、童貞卒業論文』


「・・・・コータくん・・・だったら私が「アイスミルクティー お2つお待たせしました」


『あ~い、ありがとーございまーす』


「・・・・・・んもぅ」


『そういえば、こんなにお菓子買って荷物にならない?』


「え? あぁ、このお菓子持ってくの、コータくんだよ」


『へ? どゆこと?』


「このお菓子は、私とコータくんの二人分なの。だから持って行くのはコータくん、ヨロシクね」


『えーっと、こんなに高いお菓子いっぱい・・・僕お金持ってません! お皿洗いでも何でもしますので、どーかケーサツだけは!』


「何言ってるのよ。テスト勉強見てくれたり、前に愚痴いっぱい聞いてくれたお礼だよ? お金なんか要らないよ」


『おぉ、流石金持ちや。そうやって札束でビンタして僕のことを飼いならそうとしてるんだな!?』


「もう!バカなこと言わないの!」


 クミちゃんは座ってからずっと僕の右手をにぎって、ニギニギモミモミしながらお喋りしていた。 もうクミちゃんと手を繋ぐことが当たり前になってて、逆に繋いでないとちょっと寂しくなるくらいだった。


 こんな風に喫茶店でも楽しい時間を過ごし、最後にクミちゃんの家まで送って、楽しいデートは終了した。


 今日買ったお菓子は全部僕の家に持って帰って、全部箱から出して、トートバックに詰め直した。妹に高級洋菓子が見つかりしつこくおねだりされたけど、妹よりもクミちゃんのが怖いので死守した。

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