#18 少女の恋心



 ※クミ視点



 私は小さい頃から容姿で苦労してきた。

 こんな事言うと、嫌味かと言われるかもしれないけど、顔が可愛いからと、男の子たちにはチヤホヤされ、時には一方的に迫られ、時には下心を見せつけられた。そして同性からは、調子に乗ってると理不尽に妬まれ続けてきた。


 小学校の高学年にもなると、これまでの顔だけでなく胸も大きくなり始め、他人からの好意と悪意と下心がこれまで以上に酷くなっていった。


 私は自分を取り巻く環境に恐怖し、そして自分を守る為にお人好しで善人の仮面を被り続けた。


 そんな中学時代を過ごし高校へ入学すると、サキちゃんという女の子と出会い友達になった。


 サキちゃんは、誰もが認める美少女で、でも私とは違い自分に正直で、自分の感情をストレートに出すことが出来る人だった。

 そんなサキちゃんに私は憧れ、いつも一緒に居る様になった。


 サキちゃんは、中学からの友達二人と一緒にこの高校へ進学していて、サキちゃんが言うには「その友達のお蔭で、今の私がある。私は彼にずっと助けられてきた」と。 その友達というのが、コータくんだった。


 コータくんは、一見ごく普通の男の子だった。

 でも、サキちゃんの紹介で友達として付き合うようになると、彼の凄さを度々の当りにするようになった。


 私も実際に彼に助けて貰ったことがある。

 の時だ。


 私とサキちゃんが杉山にしつこく付きまとわれた時、コータくんは上級生である杉山の教室に乗り込んで、杉山を脅し追い込んだ。

 コータくんはまだこの頃サッカー部に所属していたのだけど、既にレギュラーだったマサカズくんやケンくんを押しとどめ、サッカー部に迷惑をかけないように自分だけ退部してから一人で杉山の所へ乗り込んだ。

 乗り込んだって聞くと、殴り合いの喧嘩でもしたように聞こえるけど、本人が言うには『話したら解ってくれたよ』と。でもマサカズくんが後で教えてくれた。コータくん、杉山の弱み色々掴んできて、満面の笑顔でそれを杉山に突き付けて大人しくさせたって。


 コータくんらしいなって思った。いつもの様にあっさりトラブル解決しちゃうところも。でも本当は部活辞めるほどの覚悟もしてて、なのにそのことで私たちが心配しないように何でも無いようなフリするところも。


 もうこの時にはコータくんのことを、好きになっていた。

 もちろん男性として。

 私にとって初恋だ。

 これまで色々な男の人に言い寄られてきても全く興味を引かれることが無かったのに、杉山の一件で私の心は一発で持って行かれた。


 だから、コータくんにヒナタちゃんを助けることをお願いされたとき、愛しいコータくんのお願いだから、と何を置いても協力した。


 コータくんの作戦は上手く行き、ヒナタちゃんへの嫌がらせは無事に治まったけど、そこから私にとっての誤算が始まった。


 ヒナタちゃんとコータくんが付き合い始めたのだ。


 私はそんな二人を見るのが辛かったけど、でも、それでもコータくんの傍に居たくて、再びお人好しで善人の仮面を被り、二人の友達として、コータくんの傍から離れなかった。



 それからの日々は本当に辛かった。

 幸せそうな二人から目を背け、二人の幸せ自慢を偽物の笑顔で聞き流し、家に帰ると一人で涙を流した。


 でも、そんな日々は突然終わりを迎えた。

 ヒナタちゃんがコータくんと別れたのだ。


 その話を聞いた時、ビックリしつつも一番にコータくんのことが心配だった。

 サキちゃんはヒナタちゃんに対して、内緒にしていたことに怒りを露わにしていたけれど、私はそんなことよりも落ち込んでいるはずのコータくんのことを考えていた。


 それでも私は偽善者の仮面を取ることが出来ず、サキちゃんからのお願いもあって、ヒナタちゃんの傍に居た。


 自分は直ぐにでもコータくんの所へ駆けつけたいのに、それが出来ずにコータくんを裏切ったヒナタちゃんの傍にいる。

 そんな矛盾したいびつな状況から抜け出せないジレンマに苦しむ中、ある光景を目にした。


 コータくんと霧島さんが、仲良さそうに二人で帰る所を。



 もう居ても立ってもいられなかった。

 折角ヒナタちゃんと別れたのに、また別の人に取られてしまうのか。

 また私はそれを見続けるだけの日々を送るのか。

 そう思うと心底とした。


 直ぐにコータくんと会う為に、メールを送った。

 メールの返事は来なかったけど、それでも諦めることが出来ず、彼の家まで行き、彼を待ち続けた。


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