#12 親友は安堵し、推察する



 ※マサカズ視点



 最近、コータが以前の様な元気を取り戻しつつある。


 あれだけ一人で殻に閉じこもって鬼気迫ききせまる様子で勉強に没頭していたのに、修学旅行の班決め以来、何やらその班の連中とつるんで楽しくやってるようだ。


 その楽しそうな様子に軽く嫉妬してしまうが、でもコータがそれで失恋から立ち直ってくれるのなら、俺としても大歓迎だ。



 実際、昼ご飯のときなんかに俺たちも一緒になって喋ってみたが、悪い印象は全くなかった。


 まぁ、それもコータが彼らの中心で立ち回ってるからこそなんだろうけど。

 一時はどうなるかと思ったけど、気が付けば、いつもの様にコータの周りには沢山の人が集まっている。 コータには人を惹きつけるカリスマ性みたいなのがあるんだよな。 本人はその自覚が全くないけど。




 ただ一つ気になることがある。決して悪い意味では無いが、霧島チヨコという女子のこと。


 教室では目立たずオドオドしている子で、実際コータに紹介されるまで同じクラスという認識すら俺にはなかった。 その霧島チヨコを、コータは「チョコちゃん」と呼び、昼も放課後も二人は毎日の様に一緒にいるようだ。 お昼、俺たちが一緒に居ても、二人で仲良さそうに会話して二人だけの世界に入り込んでることもしばしば。


 俺とケンとサキは、そんな二人を見て「お? コータに新しい恋人か?」とちょっとビックリしつつも安心したものだが、コータに聞くと『ぼっちの大先輩で、恋人なんかじゃないよ。 いつも僕の話し相手をしてくれる仲間なんだ』と言う。


 俺から言わせてみると「いやいやいや、好きなんだろ? だったらさっさと付き合っちゃえよ!」と思うのだけど、当の本人は『恋愛感情はないよ。今は友達として気楽にお喋りしてる方のが楽しいよ』とその気がない。


 何にしても、恋人だろうが仲間だろうが、コータに寄り添ってくれている霧島チヨコには感謝してるし「これからもコータのことをよろしく」と思っている。




 コータは立ち直りつつある。

 寄り添ってくれる存在も出来た。


 あとは水木ヒナタだ。


 最大の復讐は、自分が幸せになること、とよく言うが、今まさにその状況ではないだろうか?


 水木ヒナタは、今のコータを見て何を思う?


 自分が傷付けた元恋人に対する後ろめたさから、幸せにしている様子に安心するのか。

 それとも、自分が捨ててしまった幸せを惜しんで後悔しているのか。





 そもそも、水木ヒナタはどうしてコータと別れたんだ?

 別に好きな男が出来たとコータには言ったらしいけど、ホントにそうなのか?

 その割にはちっとも他の男の存在を感じないし、本人も全く楽しそうには見えない。


 以前の水木ヒナタって、真面目で大人しくて、チャラチャラしたのが苦手で、異性に対してはガードが堅いと思ってたけど、俺たちが知らないだけで別の一面があったんだろうか。



 もしかしたらだけど、コータと恋人になってコータの献身的な愛情を受け続けたことで、うわついてになってしまったとかありえるな。


 それで、強引な男とかに言い寄られて、そいつと比べてコータに物足りなさを感じてしまったとか。


 もしそうなら

「違うだろぉ、コータの良さはソコだろぉ。それがコータの優しさと気遣いじゃないか」と言ってやりたい。

 水木ヒナタには、それが解ると思ってたんだけどな。



 それとも、本当はコータにも言えない様な別の事情があるのだろうか。


 一度直接本人に話を聞いてみたいが、部外者の俺が首を突っ込むのはコータも嫌がるだろうし、上手く立ち回れる自信もない。


 もしコータが俺の立場だったら、今頃すいすいと間に入り込んで上手いこと立ち回って、あっという間に解決してしまうんだろうけど、俺にはそんな器用なことは出来ないし、結局見守ることしか出来ないんだろうな。


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