#09 失恋から回復の兆し





 僕たちぼっち軍団は、放課後の勉強会と言う名の大喜利大会を終えて、お互いの連絡先を交換し、一緒に校舎を出た。


 校門で、「またなー」と言って手を振って、それぞれの方向に別れて帰った。


 霧島さんと方向が一緒だったので、途中まで一緒に帰ることになった。


 でも二人きりになった途端、霧島さんは全く喋らなくなった。

 班のみんなと居た時は、もう少し喋ってくれてたのに。


 普段教室でも、霧島さんはドコかオドオドしていて、誰とも目を合わせようとしない人だ。 ぼっち界隈では中ボスクラスのぼっちではないだろうか。


 本来、新米ぼっちの僕としては、ぼっち先輩に気を使って黙って送るべきなんだろうけど、さっきまでの楽しそうな霧島さんの様子を見ちゃってるから、二人きりでも喋ってほしくなってしまい、ガンガン話しかけることにした。



『霧島さん、いつも教室だと本読んでるけど、どんなジャンル読むの? まさか鈴木さんと同族でBLとか?』


「ち、ちが・・・・ちがいます!」


『じゃぁ、僕でも読めそうなやつなの?』


「たぶん・・・問題ないです・・・」


『面白いの?』


「わたしは面白いと・・・」


『じゃぁ、こんど貸してよ。読み終わってるのとかで良いから』


「え、えーと・・・はい・・・」


『お、ホントにいいの?』


「はい・・・大丈夫です・・・」


『おぉ。やったぁ。 楽しみにしとくね』


「はい・・・」


 それから霧島さんは、たどたどしくも僕とお喋りを続けてくれた。


 するとあることに気が付いた。



 ヒナタさんにフラれてから、女の子と二人っきりでお喋りするの、初めてだ。

 失恋のショックでもっと気を遣かって疲弊しながら会話することになるかと思ってたけど、不思議とリラックスしてお喋り出来てる。


 まぁその分、霧島さんは疲弊してそうだけどね。


 だからなのか、ついつい話してしまった。


『唐突だけど、僕、少し前に付き合ってた彼女に一方的にフラれちゃったんだよね』

『それが凄いショックでさ、でも泣きたくなくて、泣いたら負けだ!とか考えちゃって、泣かないように雑念振り払う為に必死に勉強にのめり込んでたの』

『そしたら学年1位になっちゃたんだけどさ、でも全然嬉しくないの』

『なんでなんだろうね?って、違う。こんなどうでもいい話、したいわけじゃなかった』


 霧島さんは、僕の話をよく分かってなさそうだけど、それでも一生懸命聞こうとしてくれてるのが判った。


『僕さ、彼女にフラれて、凄い落ち込んで、周りと距離取って、女子とももうまともに話し出来ないんじゃないかって思ってたけど、今気がついたら霧島さんと凄いリラックスしながらお喋り出来てて』

『だから、明日からも霧島さんに話しかけてもいい? 迷惑にならないように、教室とかではいつも通りするから』

『例えば今日みたいに放課後残って勉強会したり、お昼ご飯を教室以外の場所で一緒にお喋りしながらとか、今みたいに一緒に帰ったりしてさ。 もちろん二人きりじゃなくて班のみんなも誘ったりして』


『どうかな?』


 霧島さんは、僕の話を聞いて、目を大きく見開いてから自分の胸に手を当て、ゆっくり深呼吸をした。

 僕はそんな霧島さんの様子を黙って見つめて、霧島さんの返事を待った。


「あの、私は、上手に話せなくて・・・でも今日はこれでも喋れてる方で・・・」

「コータくんだから、私も話せてると思ってて・・・だから私で良ければ・・・お願いします・・・」


 霧島さんは、顔を真っ赤にしながらも、一生懸命話してくれて、僕なんかに頭を下げてくれた。そんな霧島さんにたまらなく嬉しくなって、思わず霧島さんの頭をナデナデしてしまった。


 だって、霧島さんは凄く良い子なんだって確信したんだ。

 だから、霧島さんは「ひぃ」って一瞬悲鳴をあげたけど、それでも構わず頭を撫で続けた。


 そんなことしながらのんびり歩いていたけど、霧島さんの家の前についたので、最後にもう1つお願いをした。


『霧島さん、下の名前で呼んでもいい? チヨコさん・・・・チョコちゃんとかどう?』


「え!? あの・・・その・・・はい」


『おぉ、じゃぁチョコちゃんって呼ぶね! じゃぁまた明日!チョコちゃん!』



 そう言って、自分の家に向かって歩き出した。

 少し離れてから振り返ると、チョコちゃんはまだ家の前で僕を見送ってくれていた。

 僕は嬉しくて、大きく手を振りながら『おやすみー!チョコちゃ~ん!』と大声だすと、チョコちゃんも小さく手を振り返してくれた。




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