夢に落ちるように
そのとき僕は腹が立って仕方がなかった。
小学5年生のとき。とても仲の良かった友人とケンカをした。理由なんて今じゃ全く覚えてないが、ものすごい言い合いをしたのは覚えてる。
そして逃げ込んだ先がフラワーショップあきづきだった。母とよく来ていたので、たまたま目に付いただけだと思う。
裏口の段差でうずくまっていると、荷物を持った高校の制服姿の桜花さんと出会った。
「どうしたの?」
と、いつもの表情で訊いてくれたのを覚えてる。
「友達とケンカしたんだ」
「…そっ、か」
とだけ呟いて、何も言わずに隣に座ってくれた。
そのうち、雨が降り始めて帰るに帰れなくなった。落ちる雨粒を長いこと見ていて、その間に幼い僕は不安でいっぱいになった。もう、一緒に遊べなかったらどうしよう、とか、教室が楽しくなくなったらどうしよう、とか考えていた。
「お姉さんはどうすれば、また仲良しになれると思う?」
桜花さんは少し僕の方を見て、そのあとゆっくり、目を逸らした。その瞳が雨を映していたのを覚えている。
「……。私にも、わからないな。でもね、お姉さんがケンカしたときは、早く、謝ればよかったなって、思ったよ」
僕の中でパァッとなにかが開けた。その日に友人に謝るタイミングはたくさんあったのに一回もしなかったことに気付いた。そして、明日友人に会ったときに謝る自分を想像できた。
「わかった。明日会ったらあやまるよ、ぼく」
「えらいね」
桜花さんはただ一言そう言って、僕の頭を撫でてくれた。
その一時、向けられた微笑みは僕の幼い心に熱い色を灯した。
・
・・
・・・
目が覚めた。とても懐かしい気持ちになる夢だった。
ベッドから降りて、洗面台に向かう。顔を洗って、じょうろに水をくむ。
戻ってベランダにあるサンスベリアとサボテンに水をやる。今日は日が出るようだから、陰にならない場所に移動させる。朝日が水滴に反射してキラキラと瞬く。
今日は桜花さんに会いに行こう。
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