第35話 酒場 6
「おじさま。スケベであることを恥じるな。それがおじさまなんだ」
「わかった。俺…… もうスケベ隠さない」
これにはミケも苦笑い。
「あたしはちょっと隠してほしいかにゃー」
「そっか。配慮するよ」
やばいな。俺。考えてみればサトミ達と知り合ってから処理をしていない。バレるほど女の太ももを見ちまっていたんだ。運動かなにかで発散しないとな。お、手ごろな相手がいたじゃないか。俺がドスケベ扱いされるのはしょうがないとしても、あいつらがサトミとミケを家畜呼ばわりしていることを許す気はない。
「よし、俺があいつらやってやるよ。なんなら今がチャンスだ。やっちまうか?」
二人は苦笑いを浮かべて横に首を振った。
「うん、さすがにそれは駄目だよね。そう、これは悪い見本だから。二人が止めてくれるって俺は信じてたから」
まるで、自分が間違えたことを生徒を試しただけだと言い張る体育教師みたいなことを言うだけ言ってみた。その後にサトミに尋ねる。
「しかし、どうする? 奴らやる気なくなってきたみたいだぜ? だったら飲み勝負にでも持ち込むか? 」
「なあに。酒場を仕切る奴が見逃してくれないさ。こんな金儲けの機会を逃すわけがない」
自信たっぷりにサトミが言った直後、どこからともなく高く長くまるでヘビメタのボーカルが観客を煽るような女の声が響きわたった。野次馬たちが歓声を挙げた。意味はわからなかったがサトミは満足げに頷いている。
「なるほど、餅は餅屋ってわけだな」
サトミとミケと頷き合った。
人には人の事情があるように
異世界には異世界のショウ屋さんがいるのだろう。
流れに身を委ねることにした。不思議なもので意識してなかったとはえ禁欲状態、所謂オナ禁状態だったと自覚してみるとやたらと力が湧いてくるのを感じる。あの女の顔が頭に浮かぶ。\
しかしあの女どんな服を着ていたらマントがはだけただけで太ももがチラリズム宣言するってんだ。スリットの入ったスカートなのか予想に反してホットパンツでもはいているのか知らんが大胆不的な素敵なサムシングをマントの下に期待してしまう。
俺はセクシーもキュートもどっちもいける男だ。
楽しみにしてるぜ?
「ほすlkさおおあしgヵsjls;ljwをー」
今度はよく通るオペラ歌手のような男の声が響いた。
「酒場側が介入するぞ。いろいろ決まりを説明している」
サトミが険しい顔で言った。
「な、なにかまずいのか?」
「いや、大したことじゃないさ。まあ殺しちゃだめ、どちらかが降参したら終わりにしろってさ。つまらない」
「気持ちはわかるぜ」
「あと魔法の制御には相当自信があるらしい」
二階席から大声をあげていた女の声のほうに顔を向けた。腰くらいまである長い髪の毛は燃えるように赤い。ほかの女たちとは違って黒い服をまとっていた。顔はよく見えない。ただヘヴィメタ姐さんと名づけることにした。その隣にはオペラもどきおじさん。
「おじさま、訳すぞ。魔法と武器なしで一対一で闘えってさ。あと殺すな、降参か戦闘不能で終わりにしろって。そして見物する奴は金を払えって。払わない奴は今すぐ出てけってさ。それと当然賭けるらしい。倍率を決めるからだれが闘うか決めろって」
「戦闘不能ってどう判断するんだ?」
「仲間が止めに入る。もしくは倒れてから十数えても立てなければそれで終わりだ」
「わかった、じゃあ俺をイカせてくれ」
ん? 何か違和感があったが細かいことだ。俺は続けて言った。
「お前らが侮辱されたのにおとなしくしようなんて言ってた俺を罰したい。それにあいつら俺に天罰を下したいんだろうし」
「いや、全員で行こう。向こうが三人出せば団体戦が成立する。奴らが五人でとか言い出したら卑怯だとなじってやればいい。一人しかでなければ私がいく。僕(しもべ)が受けた屈辱は主人が晴らすものだ。私はそう思っている。ミケはどう思う?」
「いいよ。あたしも喧嘩したことがないわけじゃないし…… まあ、勝てないとは思うけどしっぽ撒いて逃げたくない」
「わかる。その気持ち……」
サトミが強くうなずく。そして俺とミケの肩を抱き寄せ現地の言葉で大声で叫んだ。やじ馬たちから歓声があがった。オペラおじさんはんがまた歌うように言った。
今度は奴らも三人肩を組んで現地の言葉でなにか大声を出した。
オペラもどきおじさんがまた歌った。それに答えて奴らははフードを脱いで顔を出した。若い男と中学生くらいの少年とアラサー女だった。
サトミが言った。
「三人でやることは決まったな。次は順番を聞いてくるはずだ。おじさま、ミケ、私というのが定石だろうが、私が最初に出て他のあとの相手の戦意を削ぐのもいいかもしれないな」
「俺は二人に任せる」
「あたしはサトミが先がいい気がする。野次馬が酔っぱらう前に強烈にサトミの勝ちを印象づければあたしたちが負けたことよりもそっちのほうが噂になると思う…… それにあたしとおじさまが勝てるか微妙だし……」
悔しいが認めるべきだ。俺たち三人はサトミを先鋒にすることで決定した。
オペラもどきおじさんが何やら言った。
サトミが手をあげた。向こうは中学生くらいの少年だった。
期待できそうだ。いや、油断はだめだ。
「残念。あの男を泣かしてやりたかったのに……」
「油断するなよ? あれだけ興奮してたくらいだ。線は細いが何か格闘術を持っているかもしれない」
「うん、それにサトミは嫌かもしれないけど危ないと思ったらすぐに止めに入るからね」
「ああ、せいぜい二人に心配させないように気合を入れるさ」
そうこうしているうちにヘヴィネタ姐さんのシャウトが決まった。
「呼び出しだ。いくぞ」
向こうの少年はマントを脱ぎ上半身裸になっている。拳には何やら布を巻いている。
「布になにか仕込んでるかもしれないぞ? 気をつけろ」
「任せろ」
そう言って笑った。サトミは羽織っていた上着を俺に差し出す。思わず片膝をついて受け取った。俺がいた世界風に言うとビスチェとスパッツにブーツという姿だ。
「つま先を踏んでくるかもしれないぞ? 気をつけろ」
サトミは俺の頭をくしゃくしゃと撫でると笑って言った。
「笑って見送って。いつだって私が見たいのは大切な人の笑顔なんだ」
俺は虚を虚を付かれた。力を抜いて笑った。
それを見たサトミは鬨の声をあげた。遠吠えだ。
痺れた。カッコよかった。
俺も真似て遠吠えた。ミケも少し遅れて遠吠えた。やじ馬たちにも真似する奴らが現れた。その連なって響きあう声は波となって酒場を渦巻いていた。
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