第4話 貴族の決闘3
俺は金ぴかのヒロエモのデカブツキルモンの美しさを見上げながら思った。
決闘する日にはいい日だ。晴れていて空気は湿り気などなく穏やかな風が吹いている。さわやかな日だ。昨日の夜から時折思い出しては苦く感じていたことも胸からすぅっと断ち消えていくようだった。
昨日のたこ焼きやは繁盛していた。当初は「小説家気分を味わおう系」グルメ派で俺tueeeeだなんて少しはしゃいでいた。だが思い出してしまったのだ。娘を喜ばせようと、いや、俺がそういう家庭に育ちたかっただけかもしれないがたこ焼きパーティをしようとたこ焼きの練習をしていた時期がある。本物のたこ焼きを知っているマイも旨いと言ってくれた。
そのことが時折胸の内に浮かび上がっては苦みを残して消えていくということが繰り返されていた。それが今は思い出しても冷静でいられた。
目の前のキルモンのデカブツの中のヒロエモのニヤけた面を見ながら自分でもなぜここま冷静なのか不思議な気がしていた。耳は周りの歓声と罵声を聞き分けながらも鳥のさえずりの用にこチ翼下感じており鼻は石畳から立ち上る照り返された太陽の匂いを感じていた。瞳は日差しを受けて輝しく誇らしげな金色のキルモンを見ながらも細部まで明確にまるで手に取るかのように感じている。
(アドレナリンが出てるってやつか。)
そんなことを考えながら死ぬ可能性を傍らに身体が捕らえた外界からの実感が沸き上がる力にかわっていくこの心地よく感じていた。
隙をついて不意打ちをかますしか勝機はないと考えていた。タイミングをうかがっていると控えめな服装だがこの世界では庶民には手が出せない服を来た男女が数名現れた。余裕のあるたたずまいと大衆の歓声や罵声がやんだことからものこ決闘の重要人物だとわかる。
そいつらはヒロエモのほうにいき俺の前には一人の女が近づいてきた。
「あなたは日本語わかりますか」
金髪碧眼で俺よりも高い身長のその姿から綺麗な発音の日本語が出て面食らった。しかし、その聡明さをうかがわせる瞳が納得させた。日本では、というか俺が捨てた世界になら金髪碧眼で流暢な日本語を話す者はメディアではよく見かけた。
「そうですけど」
「このことはサイハーテ家のみなさんはご存知ですか」
「サイハーテ?」
「ええサイハーテ家です。日本語は私はシャーロットといいます。テンブリ出身です。貴族の方たちにはサイハーテ家の皆様と交流があるかたもいらっしゃいますので」
そう言えば日本人村建物の廊下に張られた手書きの大雑把な地図に現在地サイハテと書かれていたことを思い出す。そして一人レッツコンバインを見られたことも。くそッ。忘れてたのに。
「魔力の方向性の違いから解散しました」
「なるほど。サイハーテ家の方にも様々なかたがいらっしゃるようですね」
そして、シャーロットは説明を始めた。彼女はこの決闘の立会人をしている貴族の使いらしくヒロエモとの力量さがあまりにも大きいため決闘にならないと判断した。ジジイサイドが俺への応援を申し出たが負けた陣営の再挑戦になるから断った。
そこでヒロエモが調整に応じて一人で戦うなら続行、応じなければ中止、それでも戦うならこの領地の法にのっとってどちらも処罰を受けるとのことだった。ちなみに処罰としてヒロエモは大金を払う。俺は公開処刑されるとのことだった。
俺が承諾の意を示すと女は微笑み会釈をして優雅にヒロエモのほうに向かっていった。しばらく何やらやり取りしていたが戻ってきた女が言った。
「フリップ卿も承諾してくれました。魔力供給はお互い本人のみ。もし、他の者が魔力を供給されればその時点で負けです。決闘を汚したとしてそれなりの対処もいたします」
「フリップ? ヒロエモじゃなくて」
「ああ、彼は最近 大陸で荒稼ぎしてきたんですよ。それで現地のリーダーの一人の名前を名乗ってるんです。現地から連れてきた人を従わせるために現地のリーダーに認められたという体裁で」
「そっか」
「なるほど。あなたはサイハーテ家とはあまり親しくされていないのですね」
そして、シャーロットは魔力を供給している人間とそうでないものの見分け方を教えてくれた。魔力を供給するには基本的に念じればいいわけだが複数の人間が同じものへ魔力を送る場合は当然息を合わせなければならない。貴族たちが音楽やダンスをするのもたそのためだ。
堂々と音楽やダンスなんかで息を合わせることができない場合はなんらかの合図を送りあうから、歓客たちやそれぞれの楽団に派遣された監視員が不自然な動きをしている者を見つけしだい止めているそうだ。
まるでイカサマが行われる麻雀勝負の小説や漫画でみたいだ。まあ、それをやるやつと見抜くやつのいたちごっこはきりがないのだろうが大量に人を雇える貴族ならではの解決法だ。
そんなことを思っているとシャーロットが言った。
「では、号砲が鳴りましたらスタートです。殺すか殺されるか、降参させるか降参するかまで終わりません。」
「ああ」
「ではこれを」
白いハンカチを差し出された。怪訝な顔をする俺にシャーロットは説明した。
「いざとなったらそれを振ってください。降参とみなします」
「なるほど」
それを持つシャーロットの手を押し返した。怪訝な顔をして彼女は言った。
「あなたが死んだら悲しむ人もいるのでは」
シャーロットの視線を負った。俺の左手の薬指にいまだはめてある呪いの指輪に注がれていた。しばし眺めた。あのとき崖から海に投げ捨てようとして捨てられなかった指輪だ。
俺は首を横に振った。シャーロットは一つ二つ頷くとひとこと言った。
「立場上私は賭けに参加できませんが経験上オッズはニ対十くらいになりそうです」
「ほう」
意外だった。調整したとしてももっと差が付くかと思った。
「立場がなければあなたに賭けましたよ」
「ありがとう」
彼女は仲間たちとその場を後にした。そして俺は奴と向き合った。
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