自分にしかないもの

 自分にしかないものがほしいという。トドリは大体なんでもできる。走るのが早いしお弁当も自分で作っているし、二重の目と丸い爪がチャーミングだ。そして誰より優しく孤独でさびしい。どれもがトドリにしかないたったひとつのものだと思う。

「あなたみたいに生きたいわ」

「あたしなんて、親を泣かせてばっかだよ」

 屋上に風が吹き抜ける。トドリがあたしの煙草を奪う。その指先であたしの襟元をひっつかんでリボンを引き抜くなら、トドリのものになってあげてもいい。

「泣いてくれるのは愛しているからでしょう」

「じゃあ、あたしが戸取のために泣くよ」

「泣き顔はいや。笑っていて、陽」

 あたしたちの髪から同じ煙の匂いがする。それだけであたしの心は柔らかくなるけど、トドリの心は満たせない。どれだけ与えようとしても、受けとめてくれなきゃどうしようもないんだ、トドリ。

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